arch
「由紀恵は、胸ポケットにつやつやになるリップとか入ってるもんね」
梨花子がそう言うので、私は由紀恵のポケットをつい見てしまった。そうなんだ、と。
「いや、入ってないし、梨花子テキトー!」
「入ってないんだ。でも、入ってそうと思う。そういうとこがモテるんだよね」
「あ、私入ってるよ!」得意気になって、リップを取ろうと胸ポケットに指を差し込む。

「唯はスースーするリップ入ってそう」
「わかるう!」
「……その、通りですけど」
 私はつまみ掛けたリップをそのままポケットへ落とした。

「……機能性大事だし」
「……そだね。ちなみに、私は?」
 梨花子の問いかけに、私たちは声を揃えた
「「持ってない」」
 すると梨花子がじゃんっとばかりに出して見せたのはパッケージも可愛い、たぶん、“つやつやになるリップ”

「持っているのに持ってないと思われちゃうのが、モテないポイント」
 わざとがっくり肩を落とす梨花子に、私も由紀恵も吹き出したけれど、とにかく、恋はしたいと私たちは思っていたのだ。
 由紀恵に告白してきたのは、少しお調子者っぽい、もしくは入学してすぐに張り切っているのか……だけど、何となく格好いいけどなと好感が持てる山地くんだった。
「まだ、よく知らないから」と、保留の様にも取れる言い方で由紀恵は「断っちゃった」と、笑った。
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