君の才能ごと、独り占め

1☆クールな彼

私が転校してきたその日、教室はいつもより少しだけ騒がしかった。

窓の外では四月の風が桜の花びらを運んでいて、開け放たれた廊下側のドアから、明るいざわめきが流れ込んでくる。新学期が始まってまだ一週間。クラスの空気はできあがりきっていなくて、そのぶん新しい話題にみんなが敏感だった。

担任の先生に呼ばれ、私は教壇の横に立つ。

「今日から二年三組に入る、橘 星音さんです」

その名前が告げられた瞬間、教室の空気がぴんと張ったのがわかった。

やっぱり、と思う。

前の学校でも、こういう反応には慣れていた。

私は軽く頭を下げる。

「橘星音です。よろしくお願いします」

それだけの、短い挨拶だった。なのに、教室の中は小さなどよめきでいっぱいになる。

橘星音。

その名前を知っている人は、きっと少なくない。

ピアノコンクールで何度か名前が出たことがある。テレビに少しだけ映ったこともある。雑誌で取り上げられたこともある。才能がある、将来有望、若き天才。そんな言葉を勝手に並べられてきた。

でも私にとってそれは、誇らしいものでもあり、同時に息苦しいものでもあった。
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