君の才能ごと、独り占め
すごいね、と言われるたびに、普通でいられなくなる。

憧れる、と言われるたびに、勝手に遠い場所へ置かれる。

本当は、ただの高校生みたいに笑って、友達と話して、放課後に寄り道してみたかっただけなのに。

「じゃあ橘さんの席は、窓側の後ろから二番目ね」

先生が指した席に視線を向けた瞬間、私は一人の男子と目が合った。

その席の隣。

黒髪。切れ長の目。無表情に近い整った顔立ち。制服の着こなしまで無駄がなくて、そこだけ空気が静かな気がした。

たぶん、彼がこのクラスでいちばん目立つ人だ。

騒いでいるわけでもない。笑っているわけでもない。なのに、目を引く。

私が軽く会釈をすると、彼はほんの少しだけまぶたを動かした。それが返事の代わりらしかった。

席についたとたん、前や横からいくつも声が飛んでくる。

「ねえ、ほんとにあの橘さん?」

「コンクール優勝したことあるよね?」

「すごい、めっちゃきれい」

「ピアノ弾けるの? 今度聴きたい」

矢継ぎ早の質問に笑顔で答えながら、内心では少しずつ呼吸が浅くなっていく。
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