君の才能ごと、独り占め
「弾きたくないなら断ればいい」

その答えは、驚くほど簡単だった。

「でも、せっかく期待してくれたのに」

「期待に応える義務はない」

「……冷たく聞こえるよ」

「事実」

あまりに迷いのない口調で言われて、私はふっと笑ってしまった。

すると榊くんは、わずかに目を細める。

「やっと笑った」

「え」

「教室でずっと無理してた」

思わず息が止まる。

そんなの、自分でも気づかれないようにしていたのに。

「わかるんだ」

「なんとなく」

「榊くんって、意外と人のことよく見てるね」

「橘のことは、わかりやすい」

さらっと言われて、また胸が変な音を立てた。

私のことは、わかりやすい。

それはどういう意味なのだろう。

聞き返せないまま外へ出ると、空はもう淡い茜色に染まり始めていた。
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