【New】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
やけに言葉に圧力を感じる。
こんな時間に女ひとりで居ていい場所ではないし、確かにその通りなんだけど。でも、そんな言い方しなくたって良いじゃない。
「っていうか、まさかと思うけど売りとかやってないよね?」
言いながら、彼がわたしの目の前に屈んだ。かと思うと、白い腕が伸びてきてマスクを勝手に下ろす。
そのまま指先で顎を掬うように持ち上げられると、長いまつ毛に縁取られた瞳と視線が絡んで。どきり。それだけで、心が急に落ち着かなくなった。
「売り、って、なに……?」
「……わかんないならいい。アンタ名前は?」
「え、やだ。教えたくないです」
一度離れた指がワイヤー部分をつまんで、マスクを持ち上げる。直してもらっても妙に違和感があって、自分で再度整え直した。
この人が何をしたいのか全然わからない。
「初対面の、素性も分からないような人に名乗りたくありません」
いくら目の前の男が浮世離れした美しさを持ってるからって、良い人だとは限らない。っていうか、むしろ悪い人の可能性の方が圧倒的に高い。
けれどそうやって言い返されたのが意外だったのか、その人は澄んだ瞳を一瞬見開いて。
「ふっ、面白いじゃん。俺そういうの嫌いじゃないよ」
「はあ……」
「ほら、いつまでも座り込んでないでこっちおいで」
声色は、さっきよりもずっとずっと優しくなった。
先に立ち上がった彼に手を差し伸べられて、警戒心はゆるめないまま引っ張られるような形で立ち上がる。思っていたよりもずっと、わたしよりも背が高かった。
「俺は神喜 越。
まあ、色々あって今日はこの辺をパトロールしてる。面倒だしアンタのことを警察に突き出そうとかは思ってないから安心しなよ」