【New】黒蝶 -ふたりの総長に奪われて-
猫みたいに簡単に人の懐へと入り込んでくるのに、まるで隙が見えなくて蛇みたいな人だと思った。
パトロール、なんて聞いてもますます怪しいだけなのに。
「東山 雫」
この男だったら、わたしに夢を見せてくれるかもしれない。
ううん。夢じゃなくたっていい。わたしに、今とは違う現実を、世界を、見せてくれるかもしれない。
「雫、ね。……雫、俺といっしょに来る?」
その誘いはとても甘美で、わたしの心臓を強く揺さぶった。
「わたし、」
「あー!! 越おった!!!」
何かが変わる、予感の問い掛け。
それを突如遮ったのは見知らぬ大声で、その持ち主が猛スピードでこちらへとやってくるのが見える。え、なになになに。怖いんだけど。
「……はあ。最悪」
「最悪はこっちのセリフやわ!
越のことどんだけさがしたとおもてんねん! ……って、その嬢ちゃん誰や?」
関東ではあまり聞き馴染みのない方言混じりでまくし立ててから、わたしに視線が向けられる。
いかにも“チャラいです”って言葉を体現するみたいに、腰まで下げられたデニムパンツと、ポケットから垂れ下がるシルバーのウォレットチェーン。
毛先がひどく傷んでいそうなキンッキンの金髪は根元が伸びてプリンになっているし、指先にも女子が早々好まなさそうなリングが幾つかつけられている。
ひとりだったら絶対に関わりたくないタイプだ。
「拾った。いまから朝顔に連れて帰る」
「は? ……はあ!?」