死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡
「お団子の代金なら、私が払います!」
 私は声を張り上げ、着物の(たもと)から小さな巾着を取り出した。

「神様はお腹を空かせた子を叩きのめすような、狭量なお方ではありません。……それに、盗みはいけないことけれど、この子をここまで追い詰めたのは、異邦人だからと仕事も食べ物も与えなかった私たち大人の側ではありませんか!」

「なっ、何を生意気な——」
 私は、あっけに取られる神官の手のひらにするりと銭を握らせた。名付けて、「悪代官作戦」。

 お団子代にしては重みのあるそれに、神官たちは反論を飛ばそうとしていた口を真一文字に結んだ。

「……ま、まあ、巫女様がそう仰るならば、今回限りは目を瞑ろう」
「ありがとうございます」
 ——ふっ。勝った。

 私はくるりと振り返り、少年の前に跪いた。
「大丈夫? 立てるかしら?」

 ところが、差し伸べた手は、勢いよく弾かれた。土と砂埃で汚れた前髪から青い瞳がのぞく。両の眼は警戒の色に満ち、小さく震える姿は、毛を逆立てた子猫のようだ。

(……哀しい瞳。世の中に怯えきっているみたい)

 ——やっぱり、放っては置けない。

「痛いよね。ちょっと見せてごらん」

「Don't touch me!」
 少年は英語が訛ったような異国の言葉で反発するが、私は構わず、擦りむいた膝にそっと手を添えた。

 手のひらに意識を集中させると、確かに感じる脈動。じんわり温かい力が心臓から湧いてくる。ここで、血の流れと一緒に全身に行き渡らせるイメージ。これを患部へ放出させれば……
 じわりと柔らかな光が灯り、少年の傷口が塞がっていく。これが私たち巫女一族にだけ与えられた癒しの力。

 代わりに、私の頭の奥に少しだけズキリとした重みが走る。——これ、相手の痛みを取り除く代償なんだって。地味にしんどいけれど、今はそんなこと気にしてらんない。

「……っ?」
 少年は、塞がった傷と私の顔を見比べ、目を見開いた。自分の身に起きたことが理解できない、って顔だ。たぶん、痛みがなくなったことへの安堵よりも、わけがわからない事象への恐怖心が勝っているんだと思う。私だって最初は、この力が気持ち悪かったもの。当然のことだ。

 私は、前世の私がもらいたかった、ありったけのやさしさを込めて、彼に微笑んだ。

「——私はなずなっていうの。あなたの名前は?」
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