死に損ないの巫女と十年の時を刻む春楡

少年との出会い

「おい、そこの子供! お供え物を盗んだだろう!」

 突然の怒号が境内の静寂を破る。振り下ろされる竹箒に打ち付けられ、少年は石畳の上に倒れ伏した。

「っ……!」
 反射的に、私は着物の裾をひるがえし、少年に駆け寄っていた。西洋人風の少年が、お団子を握りしめたまま呻き声をあげる。ボロ布をまとった身体は痩せて骨ばり、泥だらけ。膝小僧には拵えたばかりの傷から朱色が滲んだ。

「この異形の悪魔め。穢らわしい異邦人が、神聖な神社に足を踏み入れるとは……」
 再度振り上げられる大人たちの竹箒。

「やめてください!」
 私は咄嗟に、少年の前に立ちはだかり、精一杯両腕を広げていた。
「なずな様!? 異邦人をお庇いになられるのですか?」
 竹箒を構えた神官は目を丸くし、私と少年を見比べた。困惑と呆れの真ん中のような視線。

 ……まあこうなるのはもっともで、私は神主の娘とはいえ、若干十六歳。この神官たちにとっては自分の子供くらいの年齢なわけで、こんな小娘が何を偉そうにってなる気持ちは、正直、わかる。それになにより——この世界では、海の向こうからやってきた異国人は『異邦人』と呼ばれ、『聞き慣れぬ言語や未知の学問を操る、不気味な悪魔の使い』として忌み嫌われていた。

「なずな様、その異邦人の子供は盗人です! 悪魔の名に相応しい、浅ましき行為ですぞ」
「そうです! はやくそこをお退きください!」
 口々に叫ぶ大人たちの顔には、正義を傘にした悪意が貼り付いていた。
 
(それにしたって、相手はまだ子供なのに……)
 
 前世で犯罪者の娘と謗られた記憶が、鮮明にフラッシュバックする。道を行けば、ひそひそと陰口。SNSを開けば遠慮のない罵倒。どんなに小さくなって生きていたって、世界は私を許してくれなかった。
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