イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
帰り道に少しだけ遠回りをしたり。
昇降口で目が合えば、前より自然に笑えたり。
図書室で向かい合って本を読んでいるだけなのに、どうしようもなく満たされたり。
派手じゃない毎日が、少しずつ大事な思い出になっていく。

悠生はあれから、前みたいに軽い距離では近づかなくなった。
でも、気まずくなることもなかった。
たまに紬をからかって、たまに湊に意味ありげな視線を向けて、最後にはいつも少しだけ笑う。
そのやさしさに救われた日も、きっとあった。

ある日の放課後。
紬が教室の窓を閉めていると、廊下で待っていた湊が静かに声をかけた。

「帰ろう」

そのたったひと言が、今でも少しうれしい。

並んで歩く帰り道。
空は薄いピンク色で、冬の終わりの匂いがした。
制服の袖がふと触れるたび、紬は何度でも思う。
あの苦しかった夏も、会えない時間も、遠回りした気持ちも、全部ここにつながっていたのだと。

「白石」

名前を呼ばれて顔を上げると、湊が少しだけ歩幅をゆるめた。

「春休み、少しなら時間作れそう」

紬の目がぱっと明るくなる。

「ほんと?」

「うん。だから」

そこで珍しく言いよどんでから、湊は小さく続けた。

「また、どこか行きたい」

その不器用な誘い方が、湊らしくて、紬は笑ってしまう。

「行きたい」

そう答えると、湊も少しだけ笑った。

それだけで、十分だった。

恋は、好きになって終わりじゃない。
想いが通じても、不安はなくならない。
会えない日もあるし、すれ違う夜もある。
それでも、ちゃんと手をのばせば届くと知った。
苦しいだけだった気持ちが、今はぬくもりに変わっている。

校門を出る前、湊がそっと紬の手をつなぐ。
もう、触れることをためらわないその手に、紬はそっと指を絡めた。

振り返れば、はじまりはいつも切なかった。
でもそのぶん、この恋がここまで来たことが、どうしようもなく愛しい。

春はもうすぐ来る。
そしてきっとふたりはこれからも、何度でも恋をする。
同じ相手に、何度でも。
少しずつ、大人になりながら。
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