君の涙は春になる。
「朝比奈くん」

「ん?」

「無理しないでね」

そう言うと、湊は一瞬だけ目を伏せた。
そして困ったように笑う。

「白石、それよく言う」

「だって、ほんとだから」

「……うん」

その返事は、妙に頼りなかった。

駅の改札前で別れたあと、紬は何度も振り返りそうになった。
でも振り返ったら、きっともっと心配になってしまう。

家に帰っても、落ち着かなかった。
夕飯の味もよくわからない。
お風呂に入っても、髪を乾かしても、頭に浮かぶのは湊のことばかりだった。

弟が熱を出した。
それだけならいい。
でも、彼の顔はそれだけではない気がした。

前は夢があった。
今はない。
なくした。
慣れてる。
平気なふりが上手くなるだけ。

点だった言葉が、少しずつ線になりはじめている。
でも、その全体はまだ見えない。
見えないからこそ、余計に苦しい。

その夜、紬は短いメッセージを送った。

弟くん、お大事にしてね。朝比奈くんもちゃんと休んで。

送りすぎたかもしれないと不安になって、何度も画面を見た。
返信が来たのは、三十分ほどたってからだった。

ありがとう。弟、寝た。白石も早く寝て。

それだけの文だった。
短いのに、少し安心する。
でも、そのあとに続いたもうひとつの通知に、紬は息を止めた。

今日は会えてよかった

たったそれだけなのに、涙が出そうになった。

うれしい。
でも、切ない。
彼がそんなふうに言う日は、きっと少し無理をしている日だと思ってしまうから。
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