イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
紬は自分の傘を鞄から出しかけて、やめた。

「……入っていい?」

「最初からそのつもり」

また少しだけ、悔しい。
でも、うれしい。

肩が触れそうな距離で歩く帰り道。
雨音が近くて、外の世界が少し遠い。
傘の下だけが、小さな別の場所みたいだった。

「白石」

「なに」

「今日、眠そう」

「昨日ちょっと寝つけなくて」

「なんで」

答えるのを迷っていると、湊が静かに続けた。

「俺のこと考えてたとか」

紬は思わず立ち止まりそうになった。

「ち、違う」

「そっか」

「……少しは、考えたけど」

言ってしまってから、もう消えたいくらい恥ずかしくなった。
なのに湊は、からかうでもなく、ほんの少し目を細めただけだった。

「俺も」

雨音にまぎれそうなほど小さな声だった。
けれど紬には、はっきり聞こえた。

俺も。
その二文字だけで、胸がいっぱいになる。

駅に向かう途中、公園の前を通る。
雨に濡れたブランコが揺れていた。
誰もいない遊具の寂しさが、なぜか今日はいつもより目につく。

ふいに湊が足を止めた。

「少しだけ、寄る?」

紬はうなずいた。

屋根のあるベンチに並んで座る。
風が雨を運んできて、足元のコンクリートに細かな模様を作っていた。
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