イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
その日の放課後、紬は図書室の帰りにひとりで空を見上げた。
雲は薄く、夕焼けはまだ遠い。

昼休みの言葉が何度も胸の中で繰り返される。

だめじゃないから、困る。

あれは、どういう意味だったのだろう。
好きに近いのか。
それとも、自分まで巻き込みたくないという意味なのか。

考えるほど苦しくなる。

でも、ひとつだけ確かなことがあった。
湊はちゃんと揺れていた。
無関心では、あんな顔はしない。

下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから足音が近づいた。

「白石」

振り向くと、湊が立っていた。

「今帰り?」

「うん」

「送る」

自然すぎる言い方に、紬は少しだけ笑った。

「命令みたい」

「拒否は受け付けません」

珍しくそんなことを言うから、紬はくすっと笑ってしまう。
でも、そのあと湊が少し照れたように目をそらしたので、胸がまた苦しくなった。

校門を出て並んで歩く。
夕方の風はやさしくて、ふたりの影が細く伸びていた。

「昼のこと」

湊が先に口を開く。

紬の肩が小さく揺れる。

「ごめん」

「なんで謝るの」

「言い方、ずるかった」

紬は少し黙ってから、そっと答えた。

「……ずるかったね」

「うん」

「でも、うれしかった」

その瞬間、湊が足を止めた。

紬も立ち止まる。
沈む前の光が、彼の横顔を淡く照らしていた。

「うれしいって言わないで」

低い声だった。
怒っているわけではない。
むしろ苦しそうだった。

「期待するから」

そのひと言で、紬の胸の奥が震えた。

期待。
その言葉を口にした時点で、もう答えは半分出ているような気がした。

湊は目を伏せる。

「今の俺、誰かをちゃんと好きになる資格ないのに」

「そんなの」

「あるよ」

めずらしく、言葉を切るでもなく続ける。

「白石に会うたび思う。もっと一緒にいたいって。帰したくないって。頼りたいって。甘えたいって」

紬はもう、涙をこらえるので精いっぱいだった。

好きだと言われたわけではない。
でも、こんなの、好きより苦しい。

「でもそれって、白石を幸せにする気持ちじゃなくて、俺が救われたいだけかもしれない」

夕方の道で、湊はひどく静かに立っていた。
ひとりで壊れないように必死で立っている人の顔だった。

紬は、泣きそうなまま首を横に振る。

「救われたいって思ってくれるの、うれしいよ」

湊が顔を上げる。
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