もう戻れない
行きの車の中で晃輝を使えないと言ったことを、撤回したい。晃輝がいなかったら、負けてた。貴裕も澤村さんも、息を切らせて肩を上下させる晃輝を、呆然と見つめている。
一瞬の出来事で、十人ほどいた隣地区の制圧に成功した。会長が亡くなった噂をどこからか聞きつけて尾行していたらしい。にしても、その情報がどこから漏れたのか。真犯人がわざと漏らしたのか、みんなの動きで自然とバレてしまったのか。
調べてみないと分からないけど、それは貴裕たちに任せるとして、二人だけで家に帰るのは危険と澤村さんに言われて、今日は別荘に泊まらせてもらうことにした。
晃「俺は明日仕事だから、帰るね」
貴「気をつけてな」
「本当に、気をつけて。どこで誰が見てるか分からないから」
晃「大丈夫。俺は影宝会じゃないから」
秀くんの弟というだけで、影宝会とは関係ない。あなたは下の下。それを根に持っているようにも聞こえる、澤村さんに向けて発した言葉にも聞こえた。
やはり澤村さんもしっかり反応していて、晃輝の目の前に行くと、深々と頭を下げる。
澤「先ほどは失礼なことを言ってしまって、すみませんでした。俺らは敵を制圧することしかできず、姫を守れなかった。影宝会の一員として、恥ずべきことです」
晃「…姫なんて。俺はただ、沙和さんが大事だから守っただけ。澤村さんは影宝会を守ってくれたじゃないですか」
澤「…前言撤回させてください。あなたは素晴らしい。少々言葉は選んだ方が良いかもしれないですが」
晃「いや、それは言われたくないけど…」
別れが惜しいカップルみたいな、まどろこしい会話で、貧乏ゆすりしたくなる。
「晃輝、明日早いんだから早く帰って!ゆっくり休んで」
晃「うん。沙和さんはあんまり出歩かないようにね」
「分かった。ありがとう」
見送りをしたくて玄関まで一緒に行くと、隣地区の倒した全員を始末しに行った澤村さんも、法戸くんと藤吉さんに今日のことを連絡しているらしい貴裕も近くにいないのを確認して、晃輝に耳打ちをする。
「ねぇ、ちょっと良い?」
晃「うん。俺も、話したいことあったから」
「今のところ、澤村さんが一番濃厚だと思うんだけど、証拠がなくて」
晃「俺も、そう思う。やっぱり地下室にいたっていうのじゃない?しばらく事務所で一人だったなら、会長室に行って戻ることは、いくらでもできると思うし」
「機会があったら聞いてみる」
影宝会の危機を救ってくれた晃輝の背中は、英雄らしくなく丸まっていて、必死になって闘ってくれたのが分かる。そんな頼もしい背中とは一週間お別れ。
その間も勝手に一人話を聞き歩いて、それが晃輝にバレてまた怒られるんだろうなと考えながら、見送った。