もう戻れない
澤「でも地下室に入る時は会長室の前を通りましたけど、帰る時は会長室の前を通ってないんです」
「裏道なんてあるの?」
法「地下室から直接地上に出られる、非常出口があります」
「何でそこを使ったの?」
澤「出ようとしたら鍵がかかってたんです。ここは外鍵のみなので、内側からは鍵が閉まったら開けられないんです」
ここで私も法戸くんも、同じことを考えたのか、お互いに無表情で目が合った。そのまま澤村さんに向かう視線の動きまで同じ。
「何でそれ、今言うの?」
法「今さらですか?」
声まで揃った。いつも余裕そうな澤村さんも、今日ばかりは一歩下がる。
澤「…すみません。訳がありまして」
初めて話した時の法戸くんと同じ。あの場では言えなかった理由なんて、まるで犯人を知っているかのような口ぶり。知っているなら、先に言えば疑われなくて済んだのに。
澤「見まわりに行くと出て行った二人をこの目で見て、俺は地下室に行ったんです。それで鍵を外からかけられたので、かけた人は残り二人。俺が地下室に入ってすぐに鍵をかけられて、出るまでの五分の間に会長が撃たれたとしたら、犯人を言っているようなものです」
法「あの場で言ったら、俺らはきっと口封じされますね」
今度は、法戸くんと澤村さんが同時に私を見る。そんな哀れむ目を向けないでほしい。虚しい人みたいに見える。
「父親を兄が殺したなんて、それが本当だったら影宝会として大問題じゃん。なおさらみんなを集めて、貴裕だって証拠を見つけるよ」
法「沙和さん…。強がらないで良いんですよ?」
「強がってない」
澤「辛いなら辛いって言った方が」
「辛くない。むしろ、腹が立つ。影宝会を潰そうとしたんだよ?しかも、呑気に会長になろうとしてる。絶対あの席には座らせない」
影宝会を抜きにして家族だけの問題だとしたら、その事実にショックを受けたり辛いと思うかもしれない。地区を守るトップを殺して、その側近までもとなると、裏切りとみなされて影宝会に対しての反逆行為で永久追放される。
会長の息子ともなれば、罰則はさらに重くなる。それを分かっていながら二人も消した貴裕の心情を知りたい気持ちが上まわる。
法「貴裕さんには、どうやって話すんですか?家族で話すと、平和な解決は見えなさそうですけど」
「大丈夫。公平に話せる。それより私は、晃輝の方が心配」
兄を殺されている晃輝。無実と信じてここまで来たけど、実際に無実で濡れ衣を着せられただけだと知った時、晃輝まで犯罪に手を染める予感がする。
澤「そこは全力で止めましょう。影宝会が本当に終わってしまいます」
「別の意味で終わるけどね。みんな、気が早いけど…。別の地区に移転もできるし、足を洗うこともできるから、ちゃんと次のことを決めておいてね。私も伝手はあるから、紹介はできる」
法「そんな…。考えたくないです」
澤「でもそれが現実だろ?ちゃんと向き合え」


