もう戻れない
法戸くんに家まで迎えにきてもらって行きたかった場所は、昨日の別荘。今はあの別荘が仮の事務所になっているから、あそこに行けば誰かには会える。
藤「沙和さん、今日もいらしたんですね。おはようございます」
「おはよう。藤吉さんだけ?」
藤「ええ、そうですよ。誰に用事でした?」
「あなたに用があったの」
番をしていた藤吉さんから嘘を暴いていこう。表情をキリッと変えて、私に向き直った藤吉さん。
藤「はい。何なりと」
リビングの真ん中の、二人だけで座るにはもったいないソファに腰掛ける。クッションも良くて、これから話す暗い雰囲気には似合わないけど、ほんの少しバウンドしてみた。腰が守られそうな、最高級のスプリング。
「昨日も話してたけど、秀くんがお父さんを殺したとは思えなくて。しかも犯人に抵抗してなかったみたいだから、身近な人がお父さんを殺したと思ってるの」
藤「はい」
話を進めながらも、藤吉さんの行動を一つも見逃さないように、目を光らせる。
地区の奪い合いはしても、殺し合いまではしない影宝会。しかも銃を持つのは地下室にある訓練の時だけで、人に向けて撃った経験はないはず。
となると、慣れていないことをした行動が、きっと目線や仕草に出てくる。
「お父さんが殺された時間、藤吉さんは何をしてたのか聞きたいの。教えてくれる?」
腕を組む腕がいつもと逆、手が拳になっている、考える時に右上を向いている。全てが怪しく見える。
藤「あの日は確か、会長に見まわりに行くように言われてて。奪えそうな地区の偵察に行ってました」
「それは一人で行ったの?」
藤「ええ。でも途中で貴裕さんに会ったので、一緒に見まわりしてました」
「貴裕に会ったの?そっか…」
藤「犯人にできなくて、残念でした?」
真犯人から排除されて、内心安心はした。信頼している人だったから、できれば疑いたくない。藤吉さんにはその感情が、落胆に見えたんだろうか。首を横に振って、手も目の前で全力で振った。
「そんなことないよ。藤吉さんだったら、ちょっと悔しいから」
藤「悔しい?」
「秀くんのこと慕ってくれてたでしょ?それに私も信頼してたから、裏切られてたってことになるじゃん」
私の言葉に嘘はない。信頼していたのは本当だから、その人に裏切られたとなると、今までの関係は一気に崩れる。
藤「沙和さんを裏切ったりしないです。秀さんの彼女さんっていうのもありますけど…」
「ん?けど?」
藤「大事な人の大事な人、俺にとっても大事ですから。秀さんじゃなきゃ、奪ってたけど」