京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
「俺なあ、小説作家やねん」
「そう言ってたね」
「ほんで、水川累は俺なんよ」

 伊織の言っていることを頭の中で反芻する。

 ──水川累は、俺なんよ──

 ……水川累は、清水伊織らしい。伊織という人は寧々の隣に座っている男だ。ということは。

「ええ!? し、清水さんはっ、私の大好きな水川先生なの!?」
「そうやで」

 寧々が驚きながら隣に座る伊織をまじまじと見ると、くすくす笑いながら寧々を見つめる伊織と目が合った。いたずらが成功した子どものような目をしている。
 全てにおいて不詳な水川だから今回の件は騙されたという気分にはならない。
 だが、今日あれだけ水川累の新作について熱く語っていたのでだいぶダメージを受けた。主にメンタル面である。
 それよりも。

「本人を前に一人でぺらぺら語ってて、本当に気持ち悪いよね……」

 いたたまれない気持ちになり、寧々は俯いた。恥ずかしさといたたまれなさ、それと、どうしてすぐに正体を明かしてくれなかったのかと色んな感情の波が押し寄せた。
 寧々は服をぎゅっと掴み、行き場のない感情をどうにか抑えようとした。
 すると、大きな手が寧々の手の上に重ねられた。伊織である。

「そこまで思い詰めさせてたなんて、ほんまにすまん。つい意地悪したなって、いきすぎて寧々ちゃんを傷つけてもうた。それやったら本末転倒やのにな」
「清水さん……」
「俺の謝罪、受け入れてくれはる……?」

 じっと見つめてくる瞳はいつもの柔和な印象はなく、怒られて落ち込んでいる犬のようだった。どうやら反省しているらしい。
 伊織は秘密主義なだけで、水川累のことを黙っていたのも職業柄仕方ないことだろう。
 だから、謝られるというのもなんだかおかしい気がしてきた。
 寧々は重ねられた手から自分の手をそっと抜き取り、伊織の大きな手に重ねた。

「清水さんは何も悪くないよ。ただ、私が色々気にしすぎただけだから。ごめんなさいはこっちのセリフだよ」
「寧々ちゃんは何も悪くあらへんよ、俺が喋らんのが悪いんやし」

 確かにそれは言えている。いくら秘密主義とはいえ、友達になったのだから色々と話してくれてもいいのに。

「それはそうかも」
「……寧々ちゃん、意外とええ性格してはるね」
「それほどでも」

 寧々がにっこりと微笑めば、伊織は苦笑しながらも一応笑みを浮かべてくれたのでよしとする。
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