京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 伊織はすっと手を離した。あたたかった熱が急速に冷えていき寂しさを感じるが、それを止めることはできなかった。
 そして、伊織はすっと立ち、寧々に「少し待っとって」と言って別の部屋に行ってしまった。
 それから五分ほどして戻ってきたかと思えば、手に何かを持っていた。よくよく見れば、それは水川累最新刊の小説だった。
 伊織は寧々の隣に座り直し、手渡してきた。

「はい、寧々ちゃんにあげる」
「水川先生の最新刊だよね? 私持ってるよ」
「そうやけど、中見てみて」

 伊織に押されて寧々は小説を受け取った。表紙をめくったその瞬間、寧々は驚きで目を見開いた。

「これ、水川先生のサインだ……!」

 伊織の方を勢いよく振り返れば、ちゃめっ気たっぷりに笑い寧々を見つめる伊織と目が合った。

「意地悪してもうたし、お詫びにな」
「でも、もらっていいの?」
「これは寧々ちゃんのために書いたんや。名前もあるやろ?」

 伊織に指差されて見たサインには、水川累の他に「寧々ちゃんへ♡」と書いてあったのだ。ハートマークに思うところはあるが、名前付きでサインをもらえるなんてこれほど贅沢なことはないだろう。

「ありがとう、清水さん」
「一応内緒やで?」
「もちろんだよ」

 寧々は嬉しくてサインを指でなぞる。あの水川累からサインを直々にもらえることがこんなに幸せとは思わなかった。

「本当に、ありがとう」
「うん」

 寧々はいただいたサイン本をハンカチで包み丁寧にバッグにしまった。
 それを間近で見ていた伊織は照れくさそうにしていたが、それほど貴重なものなのだから許してほしい。
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