京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 寧々は風邪を引いているのだし、わざわざ寝室にいなくてもいいというのに、伊織はなぜかそのまま居座っている。

「清水さん、私風邪引いてるし、ここにいなくても大丈夫だよ? リビングでゆっくりしてて?」
「そばにおったらあかんの?」

 だめではない。むしろ嬉しい。だからこそ、期待してしまう自分が寧々は嫌だった。
 今の二人の距離はただの友達ではない。友達以上恋人未満というやつなのだろう。それはお互いなんとなく分かっているはずなのに、その手を取れない。
 もどかしくて苦しい。
 一歩でなくてもいい、半歩でも踏み出したら何かが変わるのだろうか。
 寧々は伊織をまっすぐ見つめた。柔和な笑顔を浮かべる伊織の真意はやはり掴めない。

「……清水さんは、私のこと嫌い?」
「そんなわけないやん、好きやで」
「じゃあ、どうして……」
「付き合わへんのって?」

 敢えて核心に迫る言葉は避けたのに、わざわざそれを言うということはきっと意味があるのだろう。普段はのらりくらりとかわし、本心を見せない伊織がこうして自分の内側を見せようとしてくれているのだから。
 寧々は小さく「そうだよ」と呟いた。

「そうやなあ、簡潔に言うと、俺の気持ちがうまくまとまらへんの。ちゃんと寧々ちゃんのことは好きや。せやから、俺の気持ちに片がつくまで待っとって欲しい。……それでもええ?」

 伊織の方から二人の気持ちは重なっていることを伝えてくれた事実に寧々は泣きそうになる。詳しくは教えてくれないあたり伊織らしいと思うが、彼は嘘をつかない誠実な人だから寧々は信じて待つことにした。

「……いつか、その理由も教えてくれる?」
「もちろん」
「寧々ちゃん、仲直りのちゅーせえへん?」
「風邪ひいてるからだめ」
「なんや、いけずやわあ」
「どっちがいけずなのよ」

 伊織は柳眉を下げて微笑んだ。その笑顔がどこか辛そうに見えるのは、きっと気のせいじゃないのだろう。
 今はまだ友達のまま。恋人とは違うところにいるけれど、いつか伊織の手を取れる日が来るまで寧々は待つことにした。
 本心を見せたがらない伊織がようやく心を開き始めているのだから、おとなしく待つほかないのである。
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