総長の愛が、重すぎる
朝、ひまりが目を覚ましたとき。

最初に感じたのは、あたたかさだった。

ぼんやりした意識のまま少し動くと、すぐ近くで布が擦れる音がした。

「……ん」

低く、眠たそうな声。

その瞬間、ひまりははっと目を開けた。

目の前に、蓮の顔があった。

「えっ!?」

思わず飛び起きそうになったけれど、腰にまわされた腕のせいで動けない。

頭が一気に覚醒する。

なんで。

なんでこんなに近いの。

昨日、ちゃんと別々に寝たはずなのに。

「れ、れん……!?」

慌てて呼ぶと、蓮はまだ半分眠ったままゆっくり目を開けた。

朝の光を受けたその顔は、いつもより少しだけ無防備で、ひまりの心臓に悪い。

「……ひまり」

名前を呼ばれただけで、胸が大きく跳ねる。

「な、なんでこんな近いの!?」

ひまりが真っ赤になって聞くと、蓮は数秒黙ったあと、まだ眠そうな声で答えた。

「寒かった」

「それ理由になる!?」

「たぶん夜中に来た」

たぶんって。

そんなあいまいな顔で言わないでほしい。

ひまりはどうにか抜け出そうとするけれど、蓮の腕は思ったよりしっかりしていて逃げられない。

「起きて、蓮」

「まだむり」

「むりじゃないよ」

「ひまりがあったかい」

そう言って、蓮はひまりの肩口に顔をうずめる。

近い。近すぎる。

息がかかるたびに、ひまりの全身が熱くなった。

「れんっ」

「……もう少し」

甘えるみたいな低い声がずるい。

学校で見せる余裕のある蓮とは全然違う。

こんなの反則だ。

「でも、朝だよ」

「知ってる」

「起きないと」

「起きたくない」

即答だった。

ひまりが困っていると、蓮はようやく少しだけ顔を上げる。

寝起きのせいか、いつもよりぼんやりした目でひまりを見つめてくる。

その視線の近さに、ひまりは思わず息を止めた。

「……可愛い」

「朝から何言ってるの」

「起きた瞬間から思った」

そんなふうに言われたら、もう顔をそらすしかない。

けれど蓮の指が、ひまりの頬にそっと触れる。

「昨日からずっと近くにいたのに、朝が一番やばい」

「やばいって何……」

「無防備すぎる」

蓮はそう言って、小さく笑った。

いつもの少し意地悪な笑いじゃない。

やわらかくて、満たされたみたいな笑顔だった。

それを見たら、ひまりも強く怒れなくなる。

「……もう、びっくりした」

正直に言うと、蓮は少しだけ申し訳なさそうに目を細めた。

「悪い」

「ほんとに思ってる?」

「半分」

「半分なんだ」

「残り半分は、うれしい」

ひまりはあきれたように笑ってしまう。

その瞬間、蓮の目が少しだけ細くなった。

「朝から笑うの反則」

「またそれ?」

「かわいすぎる」

同じことばかり言うのに、そのたび胸が苦しくなる。

蓮はゆっくり上体を起こした。

けれど腕はまだひまりの腰に残ったまま。

近い距離のまま見下ろされて、ひまりはますます落ち着かない。

「れん、ほんとに起きる?」

「起きる前にひとつ」

嫌な予感がした。

「なに」

「キス」

ひまりの顔が一気に熱くなる。

「だ、だめ」

「なんで」

「起きたばっかりだし」

「だからしたい」

意味がわからない。

困っているひまりを見て、蓮は少しだけ笑う。

でも次の瞬間には、その目がひどく甘くなっていた。

「だめ?」

そんな顔で聞かれたら、ずるい。

ひまりはしばらく迷ってから、小さくうなずいた。

すると蓮の手が頬を包みこむ。

朝のやわらかい光の中で、ゆっくり顔が近づいてきた。

目を閉じた瞬間、そっと唇が重なる。

昨夜より軽くて、でも朝らしいぬくもりのあるキスだった。

一度離れたあと、蓮は額をこつんと合わせる。

「おはよう」

低い声でそう言われて、ひまりの胸がいっぱいになる。

「……おはよう」

返すと、蓮がうれしそうに少しだけ笑った。

「今の、最高」

「どれが」

「起きたら一番近くにひまりがいたこと」

さらっと言われて、ひまりはまた赤くなる。

「私は心臓止まるかと思った」

「でも嫌じゃなかった」

図星で、何も言えない。

蓮はそんなひまりを見て、満足そうに髪をなでた。

「朝飯作る」

「え、蓮が?」

「その顔なに」

「ちょっとびっくりして」

「失礼」

そう言いながらも、蓮は機嫌がよさそうだった。

ようやく腕が離れて、ひまりはほっとする。

……はずだったのに。

立ち上がろうとした瞬間、ぐいっとまた手を引かれる。

「きゃっ」

そのまま軽く抱き寄せられて、ひまりはまた蓮の胸に戻ってしまった。

「れん!」

「最後にもう一回だけ」

「もう一回って?」

「補充」

真顔で言うから、ひまりはもう笑うしかない。

蓮はそんなひまりの髪にそっとキスをして、今度こそ腕を離した。

「これで起きれる」

「ほんとに?」

「たぶん」

最後まであやしい。

でもそのゆるい朝の空気が、ひまりにはたまらなく幸せだった。

昨夜のどきどきとは違う。

もっとやさしくて、もっと近くて、恋人なんだと実感する甘さ。

窓の外には、雨上がりのきれいな朝の光が広がっている。

その中でひまりは思う。

こうして少しずつ、蓮との思い出が増えていくのが、すごくうれしいと。
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