総長の愛が、重すぎる
やっと本殿の前までたどりついて、二人で並んで手を合わせる。

ひまりは静かに目を閉じた。

今年も、大事な人たちが笑って過ごせますように。

それから。

蓮ともっと一緒にいられますように。

お願いを終えて顔を上げると、隣の蓮も同じタイミングで目を開けた。

「何お願いしたの」

ひまりが聞くと、蓮は少しだけ黙ってから答える。

「言わない」

「え、なんで」

「言うと叶わなそう」

珍しく少しだけ子どもっぽい答えに、ひまりはくすっと笑う。

「じゃあ私は言わないでおく」

「聞いてない」

「聞きたそうだったのに」

そんなやり取りをしながら石段を下りていく。

しばらく歩いたあと、人気の少ない境内の端で蓮がふいに足を止めた。

「でも」

「え」

「ひとつだけ言う」

蓮はまっすぐひまりを見た。

夜の灯りの下で、その表情はひどく真剣だった。

「今年も来年も、その先も、おまえの隣にいたいって願った」

ひまりの胸が、大きく揺れる。

一瞬、周りの音が全部遠くなったみたいだった。

「れん……」

名前を呼ぶだけで精いっぱいになる。

蓮は少しだけ苦しそうに笑った。

「重いって思うかもしれないけど」

「思わない」

ひまりはすぐに首を振る。

そんなふうに未来の先まで言ってくれることが、うれしくてたまらなかった。

「私も同じことお願いしたの」

その瞬間、蓮の目が揺れた。

「ほんと?」

「うん」

「……やばい」

「何が?」

「うれしすぎる」

いつもは余裕のある蓮が、そんなふうに正直に顔をゆるめるのが愛しくて、ひまりは思わず笑ってしまう。

すると蓮は、やさしくひまりの肩を引き寄せた。

人目はある。

でもここは少しだけ暗くて、にぎわいからも離れている。

「ひまり」

低い声で呼ばれて、ひまりは自然に顔を上げた。

「今年最初に言う」

「え」

蓮はひまりを見つめたまま、ゆっくり言った。

「好き」

ひまりの頬が一気に熱くなる。

「ずっと好き」

まっすぐで、逃げ場なんてどこにもない。

でもその言葉に閉じこめられるのは、苦しくない。

むしろ胸の奥があたたかく満ちていく。

「私も、好き」

そう返すと、蓮はもう耐えられないみたいな顔をした。

「キスしたい」

ひまりは少しだけ周りを見る。

でも、今はそれよりも、蓮の目のほうが気になった。

その目が、自分だけを見ていることがうれしくて。

「……うん」

小さくうなずくと、蓮の手が頬に触れる。

そしてそっと、今年最初のキスが落ちた。

冬の空気の中で重なるぬくもりは、今までのどのキスよりもやさしくて、深かった。

一度離れても、蓮は額を寄せたまま動かない。

「今年も、絶対離さない」

そのひと言に、ひまりは胸がきゅっとなる。

「うん」

「来年も」

「うん」

「その先も」

何度でも答えたかった。

この人となら、きっと大丈夫だと思えたから。

ひまりはそっと蓮のコートをつかみ、小さく笑う。

「じゃあ私も、離れない」

その瞬間、蓮の表情がくしゃっと崩れた。

うれしそうで、安心したみたいで、少しだけ泣きそうな顔。

そんな顔を見せてくれるのは、きっと自分だけだと思うと、胸がいっぱいになる。

蓮はひまりを抱き寄せる。

強いのに、苦しくない。

守るみたいな腕の中で、ひまりは静かに目を閉じた。

にぎやかな初詣の音も、冬の冷たい空気も、今はもう遠い。

聞こえるのは、近くで鳴る鼓動だけ。

こうして始まる新しい一年に、不安がないわけじゃない。

嫉妬も、すれ違いも、きっとこれからもある。

それでも。

そのたびに言葉を交わして、触れ合って、好きだと確かめ合っていける。

蓮の重たいくらいまっすぐな愛も。

それを受け止めたいと思う自分の気持ちも。

全部まとめて、これから先の二人をつくっていくのだろう。

夜空を見上げれば、冬の澄んだ星が小さく光っている。

ひまりは蓮の腕の中で思う。

初めて出会った日から、少しずつ積み重ねてきた時間が、ようやく今、ひとつの形になったのだと。

好きな人の隣で、新しい年を迎えられること。

その未来を、これからも願えること。

それがこんなにも幸せだなんて、前は知らなかった。

そしてきっと、これから先も。

何度季節が巡っても、ひまりがいちばん大切にしたい居場所は変わらない。

冷たい冬の夜でも、蓮の隣だけは、いつだってあたたかかった。
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