札幌テレビ塔の灯り♡清掃員の恋
札幌の空に伸びるテレビ塔の下で、末山愛斗は今日も働いていた。来館者の案内や館内の巡回、設備の確認——忙しいけれど、一歩一歩、この街のために働くことにやりがいを感じていた。
やがて昼休みのチャイムが鳴り、愛斗は休憩室へと向かった。
ドアを開けると、清掃スタッフの近藤雪乃が腰を休めていた。
彼女はいつもテレビ塔をきれいに保ってくれる、笑顔の素敵な先輩だ。
「お疲れ様です、雪乃さん」
「お疲れ様、愛斗くん。今日も一日頑張ってるね」
雪乃の柔らかな声に応え、愛斗は近くの椅子に腰を下ろした。
いつものように仕事の話や世間話を交わしていると、雪乃がふいにスマートフォンを手に取り、画面を愛斗の方へ向けた。
「そういえば、うちの娘、乃愛っていうんだけどね。最近こんな感じなのよ」
愛斗は何気なく画面を見た瞬間、息をのんだ。
「え……?」
写真の中の少女は、間違いなく乃愛だった。愛斗が放課後にアルバイトをしている子供食堂に、毎週金曜日に欠かさず来てくれる女の子。いつも少しはにかんだ笑顔で、黙々とご飯を食べ、最後に「ごちそうさまでした」と小さく頭を下げてくれる——その乃愛だ。
「どうしたの? 知ってる子だったかしら?」
雪乃の声に、愛斗は慌てて言葉を飲み込んだ。 
乃愛がいつも「お母さんには内緒にしてね」と囁いていたことを思い出した。きっと、家のことや母親に心配をかけたくない理由があるのだろう。その秘密を自分から明かすわけにはいかない。
愛斗は笑顔を取り戻し、穏やかに言った。
「いえ、そうじゃないんです。……本当に可愛いですね。雪乃さんにそっくりで、きれいな瞳をしていらっしゃいます」
「あら、ありがとう」
雪乃は嬉しそうに目を細め、娘のことを話し始めた。
「今ね、中学三年生なの。東京の高校に進学したいって言ってて。本人もすごく頑張ってるから、その夢を応援してあげたくてね」
「そうなんですね。乃愛ちゃん、すごいですね」
危うく名前を呼びそうになり、心の中で慌てて訂正する。「お嬢さん、きっと大丈夫ですよ。夢に向かって頑張ってるんですもの」
「うん、そう信じてる。愛斗くんも応援してくれてありがとう」
そんな穏やかな時間も束の間、休憩時間が終わるベルが鳴った。二人は仕事の支度を整え、それぞれの持ち場へと戻った。その日の勤務を終え、愛斗は家に帰り、乃愛のことがずっと頭から離れなかった。
——翌日。
朝早くから起きて、出かける準備を整えた。  用事を済ませるために待ち合わせ場所へ向かい、その足でショッピングモールを歩いていると、前方に見慣れた姿があった。
「おはよう、愛斗くん。買い物に来てたの?」
雪乃がこちらに気づき、手を振ってきた。
「おはようございます。はい、ちょっとした用事で来ていたんです。雪乃さんは何をしているんですか?」
「うん、乃愛と待ち合わせをして、一緒にショッピングする約束をしてたの。高校の制服や必要なものを見に行く予定なの」
「そうなんですね。楽しそうですね」
そう話していると、後ろから小走りに駆けてくる足音が聞こえた。
「お母さん、お待たせー! ごめん、本屋さんで立ち読みしちゃった」
乃愛だった。愛斗の姿を見た瞬間、彼女の足がピタリと止まり、目を見開いた。
「え……、愛斗さん……?」
「乃愛ちゃん」
二人の驚いた様子を見て、雪乃は目を瞬かせた。
「あらあら、どういうこと? 愛斗くん、うちの娘のこと知ってるの?」
乃愛は慌てて母親の方を見た。
「お母さんこそ、どうして愛斗さんと知り合いなの?」
「愛斗くんはね、私と同じ職場の人なのよ。テレビ塔のスタッフとして働いてくれてるの」
「そうなんだ……」
乃愛は驚きながらも、少しだけ肩の力が抜けたように見えた。
愛斗は乃愛の表情を見て、そっと言葉を続けた。
「実は俺、図書館でよく乃愛ちゃんに会ってたんです。その時に挨拶をして、少しずつ話すようになって……仲良くさせてもらってたんです」
「そうなんですよ」
乃愛もすぐに頷いてくれた。
「そうだったのね。それはそれで、素敵なご縁だわ」
雪乃は嬉しそうに二人を見比べる。
それから三人は、そのまま一緒に買い物を楽しんだ。乃愛の制服を見たり、文房具を選んだり、母娘の楽しそうな姿を隣で見守りながら、愛斗は心の中で思った。——テレビ塔での出会いが、乃愛の秘密を守り、そしてこうして親子の時間を温かく見守れるきっかけになったのだと。
日が暮れ始め、買い物を終えた愛斗は二人と別れ、家へと帰りながら、今日の出会いに心から感謝していた。テレビ塔の灯りが、街を優しく照らし始めていた。
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