雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「……あー、くそ! どうするかな」

 ガレスは眉間にしわを寄せる。
 
 下手に首を突っ込めば、ろくでもないことに巻き込まれるかもしれない。
 そのまま見なかったことにして帰る。それが一番賢い。
 山で見つけた厄介事に首を突っ込んでも、得などない。

 頭の中ではそう分かっているのに、体は勝手に少女を抱きかかえていた。
 はるか昔に亡くなった妹と面影が重なり、放っておけなかったのだ。

 少女の体は驚くほど冷たくなっていた。低体温状態になり命の危機が迫っているのは明らかだ。

『完全回復(ライフ・リストア)』

 ガレスは、この国でも使える人が希少な、最上級の回復呪文をかける。すると、青白くなっていた少女を鈍い光が包み、彼女の顔に赤みがさした。

 少女は意識がないまま、体をぶるりと震わせる。

「早く帰らねえと」

 このままだと、またすぐに体が冷え切って今度こそ死んでしまう。
 ガレスは薪をその場に置くと、代わりに少女を背負って雪山を下り始める。

「……ちがうの」

 微かな声が聞こえた。ガレスは首を捩り、少女のほうを見る。

「お嬢ちゃん、起きたのか?」

 しかし、返事はない。魘されているだけのようだ。

「わたし……毒なんて……入れてない……」

 それを聞いた瞬間、ガレスは舌打ちした。

「……くそったれが」

 やっぱり、厄介ごとだった。
 子供の面倒を見たくなくて、毒を入れたと因縁でもつけて雪山に捨てたのだろうか。
 関われば、面倒なことに巻き込まれると直感的に悟った。

 だが。こんな小さな子供を、雪山に置いていけるわけがなかった。
 亡くなった妹と同じぐらいの年頃なのだから、なおさらだ。

「分かった。お前は毒なんて入れてない。だから、もう喋るな」

 ガレスは視線を鋭くする。

「死なせねえよ。お嬢ちゃん、俺に任せておけ」

 そう言うと、木こりとは思えない速さで雪山を駆け下りた。


   ◇ ◇ ◇
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