雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
 ◇ ◇ ◇

 辺境の森で木こりをしているガレス・グレイは、薪を担いで夜の雪山を歩いていた。
 今年は特に雪が多い。備えていた薪が足りなくなる家庭が続出し、仕事は引く手あまたなのだ。

 今日の山と自宅の往復も、これで四回目だ。通常の木こりなら一往復がせいぜいだろうが、ガレスは雪山訓練を受けた経験があるのでなせる業だ。

「さすがにこの雪山を四往復するとくたびれるな。……ん?」

 ガレスは足を止めた。

「今、何か聞こえたか?」

 既に日は暮れ、時刻は夜の七時近い。まともな人間なら、こんな時間まで山に残っていることはない。

「気のせいか」

 そう思って再び歩き出そうとしたとき、今度ははっきりと聞こえた。「誰か、助けて!」とか細い声が聞こえたのだ。

「まさか、遭難か⁉」

 ガレスは声が聞こえた方に向かって走り出す。
 その途中、雪の上に小さな足跡が残っているのを見つけた。

 ガレスはその足跡に自分の手のひらを重ねる。

「随分小さいな……」

 そうして足跡を追って辿り着いた先で見た光景に、ガレスはヒュッと息を呑んだ。

「おいおいおい。なんでこんなところにガキがいるんだ?」

 そこには、まだ十歳にもなってなさそうな小さな女の子が倒れていたのだ。

「おい! おい! お嬢ちゃん、生きてるか? おい!」

 ガレスは倒れている少女に声をかける。いつから倒れていたのか、水色のドレスには薄く雪が積もっている。

(こいつは、もう駄目かもしれねえな……)

 ここは、雪の降り積もった山奥だ。こんな子どもが、ましてや薄着のドレス姿の少女がひとりで来られるような場所ではない。格好を見れば、麓の町の子供が迷い込んで帰れなくなっているわけではないことは、すぐにわかった。
 つまり、この子がここにいるのはろくでもない事情があるはずだ。

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