雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「今夜なら空いている」
「……そうですか。では、七時からでよろしいでしょうか」
「ああ」
「承知しました」
エノレアは頭を下げる。
(リリアナ様は妃候補なんだから、親交を深めるのはいいことよ)
胸の奥に生まれた小さなもやもやには、気付かないふりをした。
夜七時。エノレアはリリアナを、レニオスといつも一緒に食事をとるダイニングルームへと案内する。レニオスは既に席についていた。
「リリアナ嬢?」
レニオスはエノレアと一緒にいるリリアナの顔を見て、怪訝な顔をする。
「殿下。今日はわたくしのためにお時間を作ってくださりありがとうございます」
リリアナは頬を染めて、一礼する。
「お前のため?」
レニオスは眉を顰めた。
「あのっ、私が手配したんです。せっかく青嵐宮にリリアナ様がいらしたのだから、親交を深めたほうがいいと思いまして」
エノレアはとっさに言い訳をする。すると、レニオスは眉間の皺をますます深くした。
「お前は、俺とリリアナ嬢が親交を深めればいいと思っているのか?」
「それは、もちろんです……」
声が尻すぼみに小さくなる。
リリアナは名門ロングレイン侯爵家の令嬢で、ロングレイン侯爵家の支持を得られればレニオスは王太子選考で有利になる。親交を深めておいたほうがいいに決まっている。
それなのに、なぜこんなに胸につかえがあるのか自分でもわからなかった。
「なるほど。お前の考えはよくわかった。青嵐宮でも有数の優秀な人材であるお前が言うなら、その通りだ」
レニオスはハッと吐き捨てるように言う。声は低く、明らかに機嫌が悪い。
(なんでそんなに機嫌が悪いの?)
自分は何かしでかしてしまっただろうか。
レニオスの考えがわからず、エノレアは泣きそうになる。