雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
その日の夕方、エノレアは早速リリアナに呼ばれた。正確に言うと、廊下を歩いていたら呼び止められた。
「ねえ。私はレニオス様付きの侍女なのに、今日一日全く殿下と一緒に過ごしていないわ。こんなのおかしいと思わない?」
「殿下はお忙しい方なので──」
「絶対におかしいわ。あなたが私と殿下の時間を作るように取り持って」
「……? 私がですか?」
「そうよ。他に誰がいるって言うの?」
リリアナは形のよい眉毛を顰めた。
唇のすぐ横に人差し指を当て、考えるようなポーズをする。
「そうね……夕食をご一緒するのがいいわ。まだレニオス様は夕食を召し上がってないわよね?」
「はい。そう思います」
「じゃあ、決まりだわ。晩餐の準備、よろしくね」
リリアナは朗らかに微笑むと、ひらひらと片手を振りながら自分の部屋へと戻っていく。エノレアは呆気にとられつつ、その後ろ姿を見送った。
「エノレア。どうした?」
びっくりしすぎて立ち尽くしていると、聞きなれた声がした。振り返ると、渦中の人物──レニオスとエドガーがいた。
「なんでこんなところに突っ立っている?」
「……レニオス殿下。今夜の晩餐についてお伺いしてもよろしいでしょうか」
「晩餐?」
「はい。今夜、ご都合はいかがですか?」
エノレアはレニオスをじっと見る。なぜかわからないが、断ってほしい気がした。
けれど、彼の答えは──。