雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

 王都に来る前に、ガレスが社交界について少しだけ話してくれたことがある。それによると、貴族の世界は常に化かし合いの連続なので何があっても動じない仮面と鋼のメンタルが必要らしい。

 エノレアの前にカップが置かれる。
 芳醇な香りに誘われて一口飲むと、すっきりした味わいが口の中に広がった。

「これ、美味しい……! いつもと同じ茶葉ですか?」
「ええ。青嵐宮で用意されていたものを使ったわ」
「同じ茶葉なのに?」

 正直言うと、紅茶なんて適当にお湯の中に茶葉を突っ込んで色が変われば出来上がり。味なんて誰が淹れても同じだと思っていた。
 しかし、そんな考えは改めなければならないと思うような衝撃的な美味しさだ。

「美味しい紅茶を淹れられることは、貴族令嬢の嗜みですから。お菓子もご用意したのでどうぞ」

 リリアナは皿に盛ったクッキーもテーブルに置く。

「わあ、美味しそう……」

 スライスしたアーモンドが練り込まれたアーモンドクッキーからは、甘い香りが漂う。食べてみると、サクサクとした触感で、程よい甘さだ。

「これも美味しい!」

 仕事中に美味しいお菓子が食べられるなんて、なんという幸せ。
 幸せに浸っていると、くくっと笑い声が漏れ聞こえた。正面に座るレニオスが笑っていた。

「お前は相変わらず、幸せそうに食事をするな。俺の分もやる」
「え、いいんですか?」

 エノレアは目を輝かせる。
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