雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
(温かいご飯なんて、いつ以来だろう)
エノレアはありがたく、粥を一口食べる。
味は……薄い。何の味なのかよくわからない。
お世辞にも美味しいとは言えなかった。
粥を食べてから不思議そうに椀を見つめるエノレアを見て、男が口を開く。
「あー、すまん。その……俺は少々料理が苦手だ」
男はぽりぽりと頭を掻く。
「だが、米を煮たんだ。つまり、これは間違いなく粥だ!」
男は堂々とそう言った。完全に開き直っているとしか思えない態度に、エノレアは目を丸くする。
椀の中を見る。この茶色い液体を見てすぐに「粥だ」と言い当てられる人は皆無に近いだろう。
(米を煮て、どうやったらこうなるのかしら?)
そう思ったら、なんだかおかしくなってきた。
「ふっ、ふふっ……」
エノレアは笑いを漏らす。
粥は美味しくはない。
けれど、とても温かい。体の芯が温まるほど。
「……っ」
不意に、涙がこぼれ落ちる。
「おい。食べられないほど不味かったか?」
男は動揺したように、おろおろしだす。
「違います」
「いや、不味いのは知ってる」
「違うんです」
エノレアは首を振る。
「温かいです」
男は黙る。
ほろほろと泣きながら粥を食べるエノレアを、彼は静かに見守ってくれた。
「お嬢ちゃん、今何歳だ? 名前は?」
「私……」
答えようと思ったが、声が詰まって出てこない。
男はそれを、エノレアが答えたくないと捉えたようで、質問を変えた。