雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
(まずは「ただいま」よね。そのあと「ちょっと体調がよくなくてお休みをもらったの」って言う? でもそれじゃ心配させちゃうから、第一級文官には長期休み制度があるんだって言い張る?)
ガレスを心配させないようなうまい言い訳がすぐに思い浮かばず、エノレアは悩む。
そのとき、家の玄関が開き、大柄な男が出てくるのが見えた。
エノレアはその人物を見てハッとする。
玄関扉ぎりぎりまである大きな背、年齢を感じさせないがっしりとした体格、そして、まっすぐにエノレアのほうを見据える、精悍な眼差し。
「お父さん!」
エノレアは思わず、大きな声で叫ぶ。
その声に反応するように、ガレスが右手を大きく振った。
「よう、エノレア。久しぶりだな」
ガレスはにかっと笑う。
一緒に暮らしていたころと全く変わらない様子に、懐かしさがこみ上げた。
「お父さん!」
思わず走り寄り、そのままガレスのほうにダイブする。ガレスは少しもよろめくことなく、エノレアをしっかりと抱きとめた。
「なかなかいいタックルじゃねーか。体は鈍ってないようだな」
ガレスは豪快に笑う。相変わらずの口の悪さだが、それがむしろエノレアをホッとさせた。
「お父さん、会いたかった」
何から言おうか歩きながら散々考えたのに、そんなことはすっかりどうでもよくなる。
一緒に暮らし始めてからというもの、こんなに離れていたことは一度もない。ただ、会いたかったのだと気付く。