雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「あ、そうだ。ガレスさん、今日は授業参観だから絶対に来てね」
「ああ」
そう言えば昨日の夜もそんなこと言っていたなと思い出す。完全に忘れていた。
「絶対、絶対、絶対だからね」
「ああ。わかったからもう行け」
ガレスはしっしと追い払うように手を振る。
家を出たエノレアは一度家のほうを振り返ると、「絶対だからねー!」と大きな声で叫んだ。
「ったく。こんなむさ苦しいおっさんに見に来てほしいものか?」
そうぼやきながらも、洗面所に向かうと無精ひげを綺麗に剃り、髪の毛を櫛で整える。
学校に行くと、この日の授業の内容は〝両親への手紙〟だった。
子供達が順番に親に向けた手紙を読み上げてゆく。
両親のいないエノレアはどうするのかと、ガレスはハラハラした。
「エノレア・グレイさん」
先生が名前を呼ぶと、エノレアは「はい!」と大きな声で返事をする。
「私のお父さんは、世界一かっこいいです──」
ガレスはエノレアの手紙の内容に、耳を傾ける。
お父さんは木こりです。力持ちで、何でも知っています。薬草のことも、山のことも、困ったときの解決方法も教えてくれます。
お父さんは少し怖い顔をしています。初めて見たときは熊かと思いました。それに、よく寝坊をしてだらしがないです。でもとても優しいです。寒い日は毛布をかけてくれるし、勉強も教えてくれます。
でも、一番大好きなのは一緒に遊んでくれるところです。よく、お父さんとクイズをして遊びます。それに、対決ごっこもします。
私は昔、お父さんに助けてもらいました。もしあの日お父さんに会えなかったら、今の私はいません。だから私はお父さんの娘になれて本当に幸せです。
いつもありがとう、お父さん。大好きです。エノレアより。
全て読み上げると、エノレアは教室の後ろに立つガレスを見てはにかむ。
その表情を見た瞬間、胸が熱くなった。
「……あの野郎、泣かせにきやがったな」
ガレスは子供の育て方など知らない。
父も母も、気付いたときにはいなかったから。
けれど、エノレアが大切な存在であることは疑いようがない。
なによりも──。
──お父さん。
初めてそう呼ばれて、胸がこそばゆかった。