雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
(ぎっくり腰……)
初めて聞く単語である。
しかし様子を見る限り、かなり深刻らしい。
骨折、脱臼、裂傷、火傷……。
ガレスからは様々な体の不調に対する対処法を教え込まれたが、ぎっくり腰については習っていない。
「治癒魔法をかけるわ」
「ああ、頼む」
「完全回復(ライフリストア)」
エノレアはガレスの体に手を翳し、呪文を呟く。手元がぽわっと光り、ガレスの体を包み込んだ。
「どうです?」
「うむ、治った」
「よかった!」
エノレアはホッと胸を撫で下ろす。
「念のため、診療所の先生を呼んでくるわ」
「ああ。剣で刺されたときより痛かったぞ」
「剣で刺されたことがあるの?」
「何度か。昔は修羅場を潜り抜けたからな」
ガレスは頷いた。
「はいはい。ひとりで四十人の騎士をやっつけたんだっけ?」
エノレアはガレスの話を軽く流す。
ただの木こりなのに、剣で何度も刺されるとは、一体どんな修羅場なのか。
「じゃあ、行ってくる」
エノレアは軽く片手を振ると、麓の村まで歩き始めた。
そうして呼んできた村で唯一の医師は、ガレスの腰に手を当て、ふむと頷いた。