雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「ぎっくり腰ですね」
「はい」
エノレアは頷く。
ガレスもそう言っていた。
「先生。ぎっくり腰ってどういう病気ですか?」
「簡単に言うと、腰に負担がかかって痛みが生じる状態のことを言います。癖になりやすいので、今症状がないからと言って、無理はしないでください。またなりますよ」
「なんだと! またなるだと⁉」
医師の言葉に激しく反応したのはガレスだ。
「バカ言うな。こんな痛み、二度とごめんだぞ!」
「では、無理はなさらないようお願いします」
医師は表情を変えないまま、淡々と返す。ガレスはぐっと言葉に詰まった。
代わりに口を開いたのはエノレアだ。
「腰に負担って、具体的にどういう負担ですか?」
「重いものを持ったり、無理な姿勢をしたり、そういったことです」
「なるほど」
エノレアは納得した。
ガレスは山に登り、斧で木を切り倒し、それを担いで降りてくるという作業を一日に何往復もこなしている。腰には大きな負担がかかっているだろう。
「とにかく、ぎっくり腰に無理は禁物です。普段から、無理な姿勢で重い物を持つのは控えてください」
ぴしゃりと言い放つと、くいっと眼鏡を上にあげ、立ち上がる。
「先生、ありがとうございました」
「いいえ。お大事にしてください」
医師は頭を下げると、村への道を降りて行った。
その後姿を見送ってから、エノレアはガレスのほうを振り向く。
「しばらく、木こりの仕事はお休みだね」
「もう治ったからできる」
「ダメだよ! またなったらどうするの!」
「そんときゃ、エラが──」
「お父さん?」
じろっと睨むと、ガレスはうっと言葉に詰まり、はあっとため息をつく。