雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
エノレアの人生を大きく変える事件が起きたのは、そんなある日のことだった。
その日、ロングレイン侯爵家はどこか浮き立っていた。
「どうして今日はざわざわしているの?」
エノレアは使用人のひとりに声をかける。
「お嬢様が王宮で開催されるお茶会に行かれるのですよ」
「へえ」
その使用人によると、お茶会は王子様を囲んで行われる大事なものなのだそうだ。
(王宮ってどんなところなのかしら?)
本でしか見たことのない世界。
そこでひらかれるお茶会はどんなに素敵なのだろうと、想像だけが膨らむ。
そのとき、「エノレア!」と自分を呼ぶ声がした。ロングレイン侯爵大夫人だ。
(いけない。また怒られる)
エノレアは反射的に頭を下げる。いつものように頭を小突かれるかと思ったが、今日は反応がない。
エノレアは恐る恐る、顔を上げた。
「エノレア。今日はあなたにも支度をさせます」
「支度?」
「あなたも、王宮に行くのよ」
「……わたしがですか?」
大夫人の言葉に、エノレアは思わず聞き返した。
「ええ。今日は王宮で第三王子レニオス殿下を囲むお茶会があります。リリアナと一緒に、あなたも出席しなさい」
エノレアは目を丸くする。
王宮に王子様。
絵本の中に出てくるような、遠い遠い世界。
自分がそこへ行けるなんて、夢にも思っていなかった。