雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
 エノレアは声に反応して振り返る。すると、カバンを抱えて走る男と、それを必死に追いかける中年の男性が見えた。

「泥棒だ! 捕まえてくれ!」

 追いかける男性が叫ぶ。

「もしやあれは、ひったくりってやつかしら?」

 王都に出てくる前に、ガレスから〝王都で遭遇する危険について〟というテーマで色々伝授された。その中に、道行く人の鞄を突然奪って持ち去る強盗がいるという話もあったことを思い出す。

「こんなにすぐに遭遇するなんて……お父さんが言うことはやっぱり正しいのね」

 多少だらしがないところはあるが、さすがはエノレアの敬愛する父だ。ガレスが教えてくれた様々な知識や技術は、どれもエノレアにとって役に立つものばかりだった。

「強盗ってことは、捕まえないといけないわ」

 強盗を捕まえる技術には自信がある。
 なにせガレスから、相手がひとりから多数まで、色々なシチュエーションで敵に襲われそうになったときの対処法を教え込まれたから。

 これはちょっとした自慢だが、故郷の村ではたまたま居合わせた窃盗団をひとりで壊滅させたことだってあるのだ。そのときは、学校の校長先生と村長から表彰状を貰った。

「怪我したくなかったらどけ!」

 盗人が叫ぶ。左脇に鞄を抱え、もう片方の手には小刀を持っていた。「わー」とか「キャー」とか、周囲からは悲鳴が上がった。

「善良な市民に刃物を向けるとは許しがたいわね」

 エノレアは眉を顰める。そのとき、近くにいた兵士がエノレアに向かって叫んだ。

「お嬢さん、下がってください!」
「大丈夫よ。任せて」

 エノレアは盗人が近づいてきたその刹那、体を屈めると彼の足を思い切り蹴とばした。
 強盗がバランスを崩して前に倒れ込む。エノレアはすかさず背後から彼の体をホールドすると、ナイフを叩き落して首を締めあげた。
 男は「うわっ」と悲鳴を上げる。
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