雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
 
「失礼します。本日より配属になったエノレア・グレイです」
「同じく、本日より配属になったオリバー・ハミルトンです」

 エノレアは軽く会釈してから、視線だけを動かして部屋を見回す。
 大量の本が整然と並ぶ本棚、花の活けられていない花瓶、大きな壁掛け時計、そして大きな執務机。想像するに、ここは座っている男の執務室だろう。

「青嵐宮にようこそ。おふたりを歓迎します。私は青嵐宮の筆頭文官をしているエドガー・レインズです」

 薄茶色の髪の男性が、胸に手を当てて軽く会釈する。

「もしかして、レインズ侯爵家の? ロイヤルアカデミーでも十年に一度の秀才だと先輩の噂は耳にしていました。お会いできて光栄です」
「私の噂を? それは光栄ですね」

 エドガーはにこやかに微笑みそう言うと、「こちらが私達が仕えるレニオス・アッシュフォード殿下だよ」と椅子に座った男に視線を向けた。

(へえ、この人が)

 エノレアはレニオスを見る。

 年齢は確か二十三歳だったと記憶している。
 どこか冷たく見えるが、その目鼻立ちは非常に整っていた。頭の回転が速く仕事ができる反面、使えないと判断するとすぐにクビにすると聞いていたので、もっと学者風の神経質そうな男性を想像していた。

 レイオスは真っ直ぐにエノレアを見返す。
 
「エノレア・グレイ」

 レニオスが口を開く。

「試験結果は見たか?」
「いいえ」
「なぜだ?」
「受かったのだから、見る必要もないと思って」
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