雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「その美女が、エノレアなのではないかという噂が立っております」
「なんだと?」
レニオスは聞き返す。
「バカを言うな。彼女のあの細い腕を見ていないのか? あの細腕で凶悪犯をねじ伏せられるとでも思っているのか?」
「私もそう思ったのですが、現場を見た者が間違いなく彼女だったと──」
エドガーは肩を竦める。
確かに、レニオスがバカな話だと一蹴するのも無理がないような内容だ。しかし、その目撃者は青嵐宮で働いている第三級文官だ。見間違えるとも思えなかった。
「誰に教わった形跡もないのに、暗号や古代文字、魔法に異国語までマスターしている。はては凶悪犯を一瞬でねじ伏せる凄腕の騎士のようなことまでできるだと?」
「現実離れしていることは確かですね」
「はっ」
レニオスは笑いを漏らす。
もしそれが本当なら、現実離れどころの騒ぎではない。
「いずれにしても、何か秘密を抱えていることは確かだな」
不正をして第一級文官試験を突破したと思っていたが、思わぬお宝を拾ったかもしれない。
そのとき、部屋をノックする音が聞こえた。エドガーが立ち上がり、ドアを開ける。
「オリバー・ハミルトンです。少し早いのですが、殿下とお約束しているロングレイン侯爵がお越しです。接客室にお通ししました」
少し緊張の面持ちでそう言ったのは、エノレアと一緒に採用された男──オリバーだった。