雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
横に座るエドガーが耐え切れない様子で噴き出す。
確かにレニオスは冒頭でそう言ったが、その対象に議事録係まで含まれているとは誰も思っていないだろう。
「なんて非常識な新人だ! エドガー殿、教育が足りておりません」
その文官がエノレアの上司であるエドガーに苦言を呈する。エドガーが何かを言おうとしているのを、レニオスは制止した。
「よい。確かに俺は皆に対して忌憚のない意見を求めた。それで、エノレア・グレイ。一体何がおかしいと言うんんだ?」
レニオスはエノレアに尋ねる。
エノレアの働きぶりはこの二カ月、注視して見てきた。採用試験で歴代一位を取るだけあり、確かに優秀だ。しかし、どうでもいいことでこの会議を中断させたのだとしたら、あの文官が言う通り教育し直す必要がある。
「ここを見てください。原材料にシルウッドと記載されています。シルウッドは南方で採れる木材で軽くて施工性に優れている一方で、密度が低く強度が弱いんです。ですので、耐久年数が低く建設用木材には適しておりません。ですが、この量は内装部分に使うにしては多すぎます。それに、ここの部分! 接合金具に──」
エノレアは見積書の項目のおかしな点をつらつらと説明していく。レニオスはそれを聞き、要は、建設しようとしている施設に対して原材料の品目に疑問があると言っているのだと理解した。
「お前が今説明したことは、どこで得た知識だ?」
「父に教わりました。木こりですので、木材や建設資材には詳しいんです」
エノレアは誇らしげに胸を張る。
(……また父親か)
エノレアは何を聞いても『父に教わった』という。一体どんなスーパー木こりなのかと思わなくもないが、今回に関しては木材に関する知識なので詳しくてもなんら不思議はない。
「確かにそれは気になるところだな。おい、この見積もりを持ってきた工事会社に内容について今一度確認をしろ」
「……っ殿下、このような小娘の言うことを聞くのですか!」
「木材の専門家の娘がそう言っているんだ。聞く価値はあるだろう?」
「しかし、発注遅れは工期遅れに──」
「発注は元々来月の予定だった。遅れないように、すぐに確認すればいいだけだろう?」
レニオスの指摘に、文官はぐっと言葉に詰まる。「かしこまりました」と言いつつも、その顔は不満に満ちていた。
その後もいくつかの議題が報告され、一時間ほどで会議は終了した。
ふと、エノレアがエドガーの背後を通り過ぎて吸い寄せられるように窓のほうに寄って行くのが見えた。視線で追うと、彼女は少し思案するような表情をしてからくるりとこちらに振り返った。
「レニオス殿下、エドガー様。少しよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
レニオスは聞き返す。
「このあと外出の予定だと思いますが──」
エノレアはレニオスとエドガーの顔を交互に見る。
「延期にしたほうがいいと思います。もうすぐ大雨が降るので」
「はい?」