雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「この疫病神がリリアナに毒を飲ませたのです! ああ、リリアナ。どうしてっ!」
「ち、違います!」
「この期に及んで言い訳を!」
大夫人は泣き叫ぶ。
「この子は以前からリリアナを妬んでいました! 自分が正統な娘ではないことを恨んで、リリアナを……!」
「違う! 違います!」
エノレアは必死で誤解を解こうとする。
(誰か……誰か信じて)
エノレアは必死に辺りを見回す。けれど、周囲の視線はどれも冷たい。
(違うのに……)
あまりのことに、声が出てこない。
そのとき、会場の一角で世間話をしていたロングレイン侯爵が、騒ぎを聞き付け駆け寄ってきた。
「母上。何事ですか!?」
「スティーブ! エノレアが、この疫病神がリリアナに毒を!」
「違います、お兄様!」
エノレアはロングレイン侯爵──スティーブに縋ろうとした。スティーブはその手を勢いよく振り払う。
手の甲に鋭い痛みを感じた。
「貴様、なんてことを……」
怒りに満ちた、低い声だった。
「早く医師を! それと、この疫病神を捕えよ!」
「お兄様、違うんです!」
「黙れ! ロングレイン家の恥め。……父もとんだ負債を残したものだ。お前のような疫病神を引き取ったのが間違いだったのだ!」
スティーブは吐き捨てるように言う。
その言葉は、孤独だったエノレアの心を何よりも深く抉った。