雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

 レニオスは思わず聞き返す。

「だから、夕ご飯にここの食堂で作ったお弁当が欲しいです。ここの食堂、本当においしくて最高なんです。私のお気に入りは豚肉の香草焼きで──」

 エノレアは目を輝かせて、いかにここの食堂が素晴らしいかを話し出す。レニオスはその様子を、呆気にとられながら眺めた。

「……よほどお前は、ここの食堂が好きなのだな」
「はい。最高です。世の中にこんな美味しい料理があるなんて、知りませんでした!」

 エノレアは大まじめな顔で答える。

(最高の料理の基準が、低すぎないか?)

 エノレアがここの食堂の料理が大好きだと聞き、一度だけレニオスも同じ料理を用意させたことがある。食べた感想は、〝普通の料理〟だ。まずくはないが、特段美味しいとも思わなかった。

「わかった。では、褒美として今夜は最高の料理を用意しよう」
「ありがとうございます!」
「ただ、食堂の弁当はなしだ。今夜、晩餐に招待しよう」
「晩餐、ですか?」
「ああ、そうだ。追って連絡する。下がれ」

 戸惑い顔のエノレアに、下がるよう指示する。

「エドガー。今夜は食事を二人分用意するよう手配してくれ」
「はい。かしこまりました」

 エドガーは頷く。そして、じっとレニオスの顔を見つめた。

「なんだ?」
「いえ。レニオス殿下のほうから進んで女性を食事の席に招待するのは初めてだなと思いまして」
「ただの褒美だ。深い意味はない。部下が、この世で最高の料理が文官用食堂のものだと信じ込んでいるんだ。もう少し世界を広げてやるべきだろう?」
「それもそうですね」

 エドガーは笑いながら頷くと、手配のために部屋をでる。レニオスはひとり執務室に残された。

(俺から女を食事の席に誘ったのは初めてだと?)

 全くそんなつもりはなかったが、思い返せばそうかもしれない。
 ここ数年はロングレイン侯爵家のリリアナを始めとする何人かの妃候補たちと定期的に食事を共にしているが、毎回エドガーが半ば無理やりにセッティングしている。

 とは言っても、エノレアはその事実を知ったとしても「へえ、そうなんですか」と一言いうだけで感激することもないだろう。

(本当に、おかしな女だ)

 知れば知るほど興味深い。こんなに異性に対して興味を持ったのは、初めてかもしれない。 
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