雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「とても楽しく働かせていただいております」
「仕事が多くて辛くはないのか?」
「うーん、辛くないですね。父の特訓のほうが厳しかったです」
「父?」
「はい。木こりです」
エノレアは頷く。レニオスは暫く黙り込む。
「……俺の知る木こりは、ただ山で木を切るだけの職業だ。お前の父親は、普通の木こりとはだいぶ違う」
レニオスはそう言いながら、エノレアの様子を観察する。もし何か隠していることがあるとすれば、表情に出ると思ったのだ。
「え? そうなんですか? 父以外に木こりと関わったことがないので」
エノレアは驚いたような顔をする。見る限り、その様子に嘘をついている気配はない。
「……お前が前回、定例会議で指摘した教育施設建設の見積もりに対する違和感。再度詳細を確認したところ、不要な原材料が水増しされていることがわかった」
「あ、そうなんですね。発注前にわかってよかったです」
「褒美は何が欲しい?」
レニオスは両肘を机に付き手を組むと、エノレアをじっと見る。
(さあ、何を望む? エノレア・グレイ)
万が一エノレアがどこかの組織の回し者である場合、この絶好のチャンスを見逃すはずがない。何かしらの、政治的見返りを求めるはずだ。
「うーん、そうですね……」
エノレアは頬に手を当てて悩む。しばらくして、パッと表情を明るくする。
「決めました」
「なんだ? 言ってみろ」
「夕ご飯に、ここの食堂で作ったお弁当が欲しいです」
「……なに?」