世界で1番近い君と、1番遠い初恋
昼休みの廊下、手洗い場前で一人でいた私に、すっと影が落ちた。
見上げると、そこに立っていたのは幸平の彼女だった。
「……橘さん、ちょっといい?」
彼女の目は笑っていなかった。
どこか怯えと、強い嫉妬が混ざり合ったような複雑な瞳。
「橘さんが神楽くんの幼なじみなのは知ってるけど……あんまり神楽くんに話しかけたり、視線を送ったりしないでほしいな」
「……え?」
「神楽くん、夏休み中もずっと変だったの。私と一緒にいるのに、どこか遠くを見てたり、橘さんの家のこと気にしてたり……。神楽くんは優しいから、昔の幼なじみの橘さんに気を遣って断れないだけでしょ?」
彼女の言葉は、まっすぐに私を突き刺した。
「私、神楽くんの彼女なの。お願いだから……これ以上、神楽くんを惑わせないで」
彼女の爪が、自分の制服のスカートをぎゅっと掴んでいた。
彼女もまた、夏休みの間中、幸平の心が自分にないことを感じ取り、必死で傷ついていたのだ。
「……ごめんなさい。……気をつけるね」
私は深く頭を下げることしかできなかった。