世界で1番近い君と、1番遠い初恋

​昼休みの廊下、手洗い場前で一人でいた私に、すっと影が落ちた。

見上げると、そこに立っていたのは幸平の彼女だった。


​「……橘さん、ちょっといい?」


​彼女の目は笑っていなかった。

どこか怯えと、強い嫉妬が混ざり合ったような複雑な瞳。


​「橘さんが神楽くんの幼なじみなのは知ってるけど……あんまり神楽くんに話しかけたり、視線を送ったりしないでほしいな」

​「……え?」

​「神楽くん、夏休み中もずっと変だったの。私と一緒にいるのに、どこか遠くを見てたり、橘さんの家のこと気にしてたり……。神楽くんは優しいから、昔の幼なじみの橘さんに気を遣って断れないだけでしょ?」


​彼女の言葉は、まっすぐに私を突き刺した。


​「私、神楽くんの彼女なの。お願いだから……これ以上、神楽くんを惑わせないで」


​彼女の爪が、自分の制服のスカートをぎゅっと掴んでいた。

彼女もまた、夏休みの間中、幸平の心が自分にないことを感じ取り、必死で傷ついていたのだ。


​「……ごめんなさい。……気をつけるね」


​私は深く頭を下げることしかできなかった。


< 44 / 60 >

この作品をシェア

pagetop