どん底の中で、救ってくれたのは君でした。ー元歌姫の私と、君がくれた光の物語ー

第一章

春のやわらかな風が、制服のすそを揺らした。

見上げた先にあるのは、私には似合わないくらいきらびやかな門。
全国から優秀な生徒が集まる名門、星皇学園。

本来ここに立つはずだったのは、私じゃない。
妹の代わりに入学しただけ。
ばれたら終わり。
だから私は今日から、要乃愛ではなく、妹として生きる。

「……大丈夫。ちゃんと笑って、ちゃんと隠すの」

自分に言い聞かせるようにつぶやいて、黒縁メガネを指で押し上げた。
長い髪は肩で切りそろえ、目立たないように前髪も下ろした。
昔の私を知る人が見たって、たぶんすぐにはわからない。

もう私は、あの“歌姫”じゃないんだから。

かつてステージの上で歌っていた私は、ある日突然すべてを失った。
信じていた人に裏切られて、心ない言葉に傷ついて、声まで出なくなった。
あんなに好きだった歌は、今では思い出すだけで胸が痛む。

だからもう二度と、知られたくない。
過去も、本当の名前も、全部。
< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop