どん底の中で、救ってくれたのは君でした。ー元歌姫の私と、君がくれた光の物語ー
そう思っていたのに。

「……その変装、ずいぶん無理してるね」

低くてきれいな声が、すぐ後ろから落ちてきた。

びくりと肩が揺れる。
ゆっくり振り返った私の視界に映ったのは、ひとりの先輩だった。

整った顔立ち。
すらりと高い背。
涼しげな目元には、どこか人を寄せつけない空気があるのに、なぜか目が離せない。

胸元の学年章が、三年生だと告げていた。

その先輩は、驚いて固まる私をまっすぐ見つめたまま、静かに言う。

「要乃愛」

その名前を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

「っ……!」

どうして。
どうしてこの人が、その名前を知ってるの。

青ざめた私を見て、先輩はふっと目を細めた。
冷たそうに見えたのに、その表情だけは不思議なくらいやさしい。

「やっぱり。反応でわかった」

「な、なんで……」

やっとしぼり出した声は、自分でも情けないほど震えていた。
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