明日になれば、きっと。

ありのまま

次の日の放課後。一緒に帰りたかったと拗ねる陽菜に事情を説明して、部活動見学に来ていた。

お母さんには、せっかく部活に入るなら、将来に役立つものにしなさい。と言われた。まだ見てない部活もあるから、一通り見てみようと思ったのだ。

2階から綺麗な音が聞こえるのに気づき、初めは軽音楽部を見ることにした。

いいかも、とも思ったけれど、楽器をろくに扱ったことのない私には出来ないか、と思い、他の部活を見てみる事にした。

どこでなんの部活をしているかも分からないから適当に歩いていると、清水くんが目の前の教室に入っていくのが見えた。

きっとこの前言っていた写真部の体験に来たんだろう。写真が嫌いなわけではないので、少し覗いてみることにした。

「失礼します。」

部室にいる全員がこちらを向き、キラキラとした瞳で見てきた。

「もしかして、写真部に入りたいとか!?」

周りを見渡してみると、部員はそこまで居ないらしかった。

「えっと…まだ決まってなくて。」

そう返すと、少し残念そうな顔をしながら、ぜひ入ってね、と勧誘だけ受けた。

「あれ?花城さんじゃん!」

次に声をかけてきたのは清水くんだった。

「うん。さっき清水くんがこの教室に入っていくのが見えて、気になったから来てみたんだ。」

そう言うと清水くんは、カメラを操作して、私に見せながら言った。

「見てみて!これ。校門前の桜なんだけど、さっき撮ってきたんだ!」

その写真には、入学式に見た時よりも満開の桜が画面いっぱいに映っていた。

「綺麗…!」

思わず声に出ていた。私の感想を聞いた清水くんは、嬉しそうに、ありがとう!と笑った。

「あ!そうだ。試しに花城さんも撮ってみたら?こういうの好きでしょ!」

え、と思った。写真はたまに撮るけど、カメラで綺麗に撮るのはやっぱり、技術や練習がいるだろう。

「私、カメラなんて使ったことないし、そもそも使い方も分からないから…」

そう言って断ろうとすると、

「俺だって初めは分からなかったんだからいいんだって!俺で良ければ教えるよ!」

カメラを持って楽しそうにしている彼を見ていると、どうしても思ってしまう。
私もそんなふうに笑えるようになるかな?と。
たぶん、そう思ってしまったのは。
期待をしてしまったのは。
学校終わりで疲れていたからだ。

「じゃあ、試しに少しだけやってみようかな。清水くん、教えてくれる?」

そういうと、嬉しそうな顔をして、写真を撮りに行く準備を始めた。

「じゃあ花城さんはどんなのが撮りたいの?」

そう聞かれた。どんなのが撮りたい、なんて。すぐには思いつかなかった。困っている私に気づいたのか、

「俺はね、俺自身が価値のある、と思った物を撮ってるよ。」

価値のあるもの、か。そんなもの、私にあるのかな。

「さっきの桜も、入学式の日から綺麗だって思ってたんだ。花城さんは、何も見て綺麗だと思う?」

清水くんは再び私に問いかけた。

「私は…じゃあ、空とか。」

ふと目に付いた空が青かったから、そう答えた。

「空かぁ!俺も好きだよ!そういえば最近は雨ばっかりだったから久しぶりの晴れだよね!」

そう言った清水くんを見て、良かった。変だと思われなかった。と安心した。

清水くんが教えてくれた撮り方で試しに撮ってみた。
それを2人で確認してみると、

「花城さん上手だね!!この雲とか、めっちゃ綺麗に写ってる!」

清水くんは、全力で褒めてくれるけど、私からしたら清水くんの写真と差がありすぎて、お世辞のように聞こえてしまった。

「ありがとう。でも清水くんには遠く及ばないな。」

褒めたつもりだった。本当に私なんかの写真よりも何倍も上手だったから。だけど、清水くんは、

「俺は昔から撮ってるからね!それに、人と比べてばっかも良くないよ〜写真なんて、その人それぞれの良さがあるからね!撮り方を工夫すれば、技術の差なんて気にならないよ!」

そう笑う清水くんが眩しくて、目を逸らしてしまった。すると、清水くんは、何かを思い出したように、あっ!と言った。

「今度って言っても8月くらいの話だけど、文化祭で写真を展示するんだ。」

文化祭か、部活ごとで発表するのは知ってたけど、写真部は展示をするんだ。

「そっか。展示見てみるね。」

たぶん、見てほしい、という意味で言ったんだろう。そう思い、相手が求めているであろう返事を返した。

「うん。ありがとう!それで、もう今くらいからどんなものを展示するか考えないといけなくて、テーマがあるんだけど、そのテーマがちょっと難しくて…」

テーマとかあるんだ。難しいってことは、珍しいものとかなのかな。

「そのテーマってなんなの?」

そう聞くと、少し真剣な顔になった。

「テーマはありのまま。なんだよね。それで…お願いしたことがあるんだけど、俺に、花城さんを撮らせてもらえないかな?」

そう言った清水くんの言葉の意味を初めは理解できなかった。撮りたいって、私を?私なんかより可愛くて、写真写りがいい人なんて沢山いるのに。それに、テーマがありのまま、なんて。自分を作り上げている私には合わないテーマだ。

「えっと、私、写真写り良くないし…それに私なんかじゃ_」

「上手くできない。」そう続けようとした言葉を清水くんに遮られた。

「今回のテーマ。凄く花城さんに合っていると思うんだ。写真写りが悪いなんて俺がそんなことないって保証する。ごめんね、わがままっていうのは分かってるんだ。」

そう言い、頭を下げる清水くんを見ると、断ろうにも断れない。

「本当に、私なんかでいいの?」

最後に確認をする。写真を撮るのは、それで清水くんの助けになるならいいけど、やっぱり私なんかでいいのかだけが不安だった。だけど、そんな私の不安を吹き飛ばすように清水くんは笑って言った。

「俺が、花城さんを撮りたいんだ。いいかな?」

そう言われて、困惑したけど、私を撮りたいと言われて嫌な気持ちにはならなかった。

「私でよければ、お願いします。」

そう言ってぺこりと頭を下げた。

「お願いするのはこっちだよ。改めて本当にありがとう。今回の文化祭は、プロのカメラマンの方もくるみたいで、みんな気合いが入ってるんだ。」

楽しみというのが私にも伝わってきた。

「だから、早速で悪いんだけど、撮りたい写真のイメージを固めてくるから、それが終わったら撮影させてくれる?」

たしかに、プロのカメラマンが来るなら早めに行動して、いいものを展示したいだろうな。

「もちろん。私にできることなんて写真に写るだけだから。」

そう笑うと、

「それだけじゃないよ!写真に写ってくれるのがこっちは凄くありがたいんだから。」

そうやって話していると、下校のチャイムが鳴った。

「あ、もう帰らないと。」

早く帰らないと、先生に怒られちゃう。二人でそう言いながら走って部室に戻った。

「花城さん。本当にありがとう。また明日!」

またまた感謝をされた。そこまでのことはしてないのにな。

「うん。また明日。」

そう言って手を振る。

帰ったら夕飯がもう出来ているはずだ。
そういえば、話してたから時間を見てなかったけど、いつもよりも遅い時間になってしまった。お母さんに怒られちゃうかもな。

そう思いながら、久しぶりに一人で帰った。

『テーマはありのまま。』
そう言った清水くんを思い出す。
ありのまま。
私には、1番遠い言葉だと思った。
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