ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『幸せのバタートースト』坂井志緒/著
 翌朝。

 彼のベッドで目覚めた私は、一度着替えに戻るべく身支度を始めていた。

 お泊まり後とはいえ平日。今日も仕事だ。さすがに昨日の服のまま出勤するわけにはいかない。

「明菜さん。ちょっと早いけど、これから一緒にボスケ行かない?」

 シャワーから出た司が、頭をわしゃわしゃ拭きながらやってきた。

「ボスケ! うん、行きたい!」

 やっぱり朝は、ボスケのバタートーストじゃなきゃ。

「じゃあ俺、先に車の準備してるから、用意できたらエントランスのロータリーまで降りてきて」

「わかった。あ、鍵は?」

「勝手に閉まる」

「……そうでした」

 ここはホテルのサービスアパートメント。当然ホテル錠だ。

 時刻はまだ午前六時半。彼はいつものようなスーツではなく、Tシャツの上にパーカーをまとい、スニーカーを履いて部屋を出ていった。

 なるべく急いで化粧を仕上げ、ロータリーへ出る。すると、すぐに一台のイギリス車が目の前に停まった。これが彼の車らしい。「乗って」と窓越しに促され、助手席のドアノブを引いた。

「お待たせ……ん?」

 扉が開いた途端、なんともいえない香りに包まれた。高級外車らしからぬ、甘くて香ばしい香りだ。

 この香りを私は知っている。だって毎日食べているんだもの。

「あ、バレた?」

 彼が後部座席に視線を移したので、私もつられてそこを見る。クリーム色のコンテナに、角形の食パンがぎっしり並んでいる。

「ねぇ、司。これってまさか……」

「うちのホテルで焼いてる食パン。いつもはスタッフが取りに来るんだけど、今日はついでだから俺がボスケに運ぶんだ」

「え〜っと、つまり?」

 私が首をかしげると、彼はイタズラっぽく笑った。

「言ってなかったけど、ボスケのオーナー、俺なんだよね」

「ええええええっ⁉︎」

 私の日課は、自宅と職場の間にあるカフェ「Bosque」でのモーニングだ。

 香り高いバタートーストとコーヒー。そして今日からは、恋人の笑顔。

 これからの朝が、今までよりずっと楽しみだ。
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