一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「可愛い?」
「……はい」
 言ってから、急に恥ずかしくなった。
 自分でも、どうしてそんな言葉が口から出てきたのかわからない。
 ただ、ゴーヤを前にして、どうにか好きになろうと試行錯誤している湊さんを想像したら、どうしようもなく微笑ましく思えてしまったのだ。
 けれど湊さんは怒るでもなく、少し困ったように笑った。
「ゴーヤ相手にそこまで言われるとは思わなかった」
「すみません」
「いや。別にいいけど」
 そう言いながらも、どこか照れているように見えた。
 私はそんな湊さんを見て、また小さく笑った。
 こうして話していると、まだ知らない湊さんがたくさんいるのだと思う。
 仕事をしているときの顔でもなく、家事をしているときの顔でもない。
 好きなものや苦手なものを話して、くだらないことで笑う。
 そんな何気ない時間の中で、少しずつ相手のことを知っていく。
 それが、なんだか心地よかった。
 食事を終えると、湊さんが焚き火台のほうへ移動した。
「コーヒー飲む?」
「え?」
「食後に」
「はい。飲みたいです」
 湊さんは火を使って湯を沸かし、慣れた手つきでコーヒーを淹れてくれた。
 焚き火のそばで、ゆっくりと立ち上る湯気。
 食事のあとの庭には、さっきまでとは少し違った静けさが漂っていた。
 炭火の熱がまだ残っていて、時折ぱち、と小さな音がする。
 その音を聞いていると、不思議と気持ちが落ち着いた。
 渡されたカップを両手で包むと、いつものコーヒーとは少し違って感じた。
 同じコーヒーのはずなのに、場所が変わるだけで、こんなにも特別なものになるのだろうか。
「……おいしい」
「そう?」
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