一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 会計を済ませて店を出ようとしたとき、店員が笑顔で彩乃に声をかけた。
「とてもお似合いでしたよ。素敵な旦那様に選んでもらえてよかったですね」
「……ありがとうございます」
 彩乃が少し照れたように頭を下げる。
 俺も軽く会釈をした。
 店を出てしばらく歩いたところで、彩乃が小さく笑った。
「なんだか、恥ずかしいですね」
「何が?」
「さっきの店員さんです」
 彩乃は少し照れながら続けた。
「私たち、ちゃんと夫婦に見えてるみたいですね」
「……何言ってるの?」
「え?」
 思わず、そう返していた。
「夫婦だろ?」
「…………」
 彩乃が黙り込む。
 その横顔が、みるみる赤くなっていく。
 そこでようやく、自分が何を言ったのかに気づいた。
 ……何言ってるんだ、俺は。
 もちろん、俺たちは一か月限定の夫婦だ。
 それなのに、まるで当たり前のことのように言ってしまった。
 彩乃は俯いたまま、しばらく何も言わなかった。
「……そう、ですね」
 やがて小さな声が返ってくる。
 その声が、妙に耳に残った。
 俺たちはまた歩き始める。
 さっきまで感じていたぎこちなさが、少しだけ薄れている気がした。
 俺自身も、不思議なくらい自然な気持ちで彩乃の隣を歩いている。
  このまま、ずっとこうしていられたら。
 そう思った。
 けれど――。
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