一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「あれ? もしかして彩乃?」
 背後から聞こえてきた声に、俺も足を止めた。
 振り返ると、そこには長身の男が立っていた。
 爽やかな印象の男で、どこか人懐っこい笑顔を浮かべている。
「あっ、辻村くん!」
 彩乃が、ぱっと顔を輝かせた。
「やっぱり彩乃じゃん。何年振りだっけ?」
「もう随分会ってないから……五年くらい?」
「そうかもしれないね。みんな忙しくなって、なかなか会えなくなったしね」
「そうだよね。卒業してから、ほとんど会ってないもんね」
 二人は、まるで昨日まで一緒にいたかのように、自然に話を続けている。
 俺は、その隣で黙って二人を見ていた。
 ――なんだ、この感じ。
 さっきまで、あんなに自然な気持ちで彩乃の隣を歩いていたのに。
 今は、どうにも落ち着かない。
 辻村という男が嫌いなわけじゃない。
 初対面なのだから、嫌いも何もない。
 なのに、妙に気になる。
 その理由を考えてみても、よくわからなかった。
 ただ――。
 彩乃が、すごく嬉しそうなのだ。
 俺と話しているときとは、明らかに違う。
 声のトーンも。
 表情も。
 笑い方まで。
 そんな彩乃を見ていると、胸の奥がざわついてくる。
「……」
 俺は無意識に、二人の会話に耳を傾けていた。
 しばらく二人の話を聞いていると、ようやく辻村が俺の存在に気づいた。
「あれ? そちらは……?」
「あ、ごめんなさい」
 彩乃が、慌てたように俺を見る。
「こちら、湊さん。私の――」
「妻がお世話になってます」
 
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