一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 小野さんが笑う。
「別荘持ってる人が普通なわけないじゃないですか」
「いや、本当に普通だって」
 そう言いながら、私は思わず湊さんの顔を思い浮かべた。
 普通。
 ……なのだろうか。
 少なくとも、私にとっては。
 仕事では冷静で、何を考えているのかわからないこともあるくせに、家では意外と細かいことを気にする。
 料理をしている私の横に何気なく立っていたり、帰宅すると「ただいま」と声をかけてくれたり。
 そんな何気ない光景が、いくつも浮かんだ。
「水野さん?」
「え?」
「どうしたんです? ぼーっとして」
「あ……なんでもない」
 慌てて箸を動かす。
「とにかく、明後日は絶対連れてきてくださいね」
「うん……その予定」
 そう答えながら、胸の奥がわずかにざわついた。
 明後日。
 その日が来れば、湊さんがここに来る。
 みんなはきっと、まだ見たことのない『水野さんの旦那さん』を想像しながら、楽しみに待っている。
 けれど私にとっては――。
 明後日は、ただのパーティーの日ではない。
 湊さんと一緒に暮らす生活が、終わりに近づいていることを思い知らされる日なのだ。
 そう思った途端、胸の奥が、きゅっと狭くなった。
 ……どうして。
 終わることが決まっているのだから、寂しいなんて思うはずがないのに。
 私は味噌汁の椀に視線を落とした。
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