一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 社長は本当に嬉しそうだった。
「水野さんが仕事を続けていられるのも、旦那様の理解があるからなのねって、いつも感心していたのよ」
「いえ……そんな……」
 適当に相槌を打った結果、ここまで話が膨らんでしまったとは、今さら言えるはずもない。
「だから、今回は絶対に連れてきてね」
 にこやかに念を押される。
「社長、それは……」
「お願いね」
「……はい」
 断る隙も与えられないまま、社長は満足そうに頷いて、自分のデスクへ戻っていった。
 私はその場に立ち尽くした。
 どうしよう。
 完全に逃げ道を塞がれてしまった。
 しかも社長は、本気で私の旦那に会うのを楽しみにしている。
 当然だ。
 私が勝手に作ったわけでもない、存在すらしない旦那なのに。
 周囲が勝手に噂を膨らませて、気づけばイケメンで、長身で、会社経営者で、別荘まで持っていて、仕事にも理解のある完璧な男になってしまった。
 そんな人間、この世のどこを探したっているわけがない。
 ――どうするの、私。
 三十周年記念パーティーまで、あと一か月。
 存在しない旦那様を、どうやって連れていけばいいのだろう。

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