一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 今さらでも、聞けばよかった。
 けれど、もう遅い。
 今日が、その約束の最後の日なのだから。
 私は湊の隣で笑いながら、ひとりで終わりを数えていた。
 
 パーティーは、何事もなく終わった。
 最後まで笑い声の絶えない、賑やかな時間だった。
 誰もが楽しそうに話し、別れ際には「また明日」と声を掛け合っている。私も何度も笑って、何度も頭を下げた。
 隣にいた湊も、最後までいつもと変わらなかった。
 それが、少しだけ寂しかった。
 会場を出て、ホテルのロビーを抜ける。
 自動ドアが開くと、夜の空気が頬に触れた。
 その瞬間だった。
 私は、足を止めた。
「……彩乃?」
 少し先を歩いていた湊が振り返る。
 私は答えられなかった。
 ホテルの明かりが背中にある。さっきまであれほど賑やかだった会場も、扉一枚向こう側になれば、もう別の世界のように遠く感じられた。
 終わった。
 パーティーが終わった。
 そして――。
 私たちの一ヶ月の結婚生活も、終わった。
 わかっていたはずなのに、実際にその瞬間を迎えてみると、胸の奥が空っぽになっていくようだった。
 何か言わなければと思った。
 お疲れさまでした。
 今までありがとうございました。
 そんな言葉を言えばいいのだろうか。
 それとも、何かお礼をしたほうがいいのだろう。
 一ヶ月間、一緒に暮らしてくれたのだから。
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